よく知られているのに、あまり知られていない植物ビタミンCの謎
体内で合成できないのは、ヒトや霊長類だけ
「ビタミンC(L-アスコルビン酸)」といえば、身体に良い、レモン、サプリメント、抗酸化など、多くのことを思い浮かべると思います。このようにビタミンCはヒトにとっての必須栄養素としてよく知られています。しかし、ヒトはビタミンCを体内で合成できないので食物から摂取します。実はヒトを含む霊長類を除くと、ほとんどの動物は自分でビタミンCを作ることができるのです。植物も同様です。しかし、植物とビタミンCの関係については、まだわからないことがたくさんあります。
植物はどのようにビタミンCを輸送するのか
植物がビタミンCを作る経路は近年解明され、動物と植物では違う経路でビタミンCを合成することがわかりました。植物では主に葉において光の強度に応じて合成量を調節していますが、そのメカニズムが明らかになりつつあります。また、葉で合成されたビタミンCは師管を通って花や果実に移動します。次に解決すべき課題は「どうやって運ばれるのか」ですが、注目すべきは、葉の細胞から一旦細胞の外に出て移動し、たどり着いた花や果実の細胞に再び取り込まれるということです。水溶性のビタミンCは、脂質でできている細胞膜をそのままでは通ることができません。現在、この分野では輸送機構の解明と輸送体となっているタンパク質の特定が最も注目されています。そしてさらにその先には、花や果実に移動して葉よりも多く蓄積する「目的は何なのか」という課題も控えています。
品種改良や保存・輸送技術開発にも貢献できる
このように、植物で合成されるビタミンCをとりまく謎はまだたくさんありますが、これらの謎の解明はいろいろなところに役立つ知識・技術につながります。例えば、既存の野菜や果実よりビタミンCの含有量を多くする品種改良の方法を確立して付加価値を与えることや、環境ストレスにも強い植物の育種、ビタミンCを増加させたり減少を防止したりするような輸送・保存方法の提案など、可能性はたくさんあります。
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先生情報 / 大学情報
島根大学 生物資源科学部 生命科学科 教授 石川 孝博 先生
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