スーパーコンピュータとAIで探る素粒子の世界

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原子核の「強い力」を解明するには

量子力学では、自然界には「強い力」「弱い力」「電磁気力」「重力」の4つがあることがわかっています。このうち「強い力」は、原子核中の陽子と中性子を結び付ける力ですが、未解明な部分が多くあります。
原子核の中は電子顕微鏡でも観察できないので、強い力を解明するために、実験と計算(シミュレーション)による研究が行われています。粒子加速器で光速近くまで加速した素粒子同士をぶつけて反応を見る実験結果と、強い力を説明する理論「量子色力学」に基づく計算結果を組み合わせて解釈する方法です。ただ、その計算量はスーパーコンピュータでも追い付かないほど膨大なため、いかに効率的に計算できるかが大きな課題となっています。

素粒子同士の関係に特化した計算

そこで、計算を効率化するためのコンピュータ・ニューラルネットワークとして、「同変トランスフォーマ」が開発されました。生成AIの「チャットGPT」に使われている「トランスフォーマ」の原理を活用したものです。トランスフォーマはほかのニューラルネットワークと比べて、ネットワーク上の離れた位置にあるデータ同士の関係を理解する能力が高いため、離れた素粒子同士の関係の計算が素早くできるメリットがあります。
そこに物理の基本である「対称性」を理解する特性を盛り込むことで、物理系の計算に特化したニューラルネットワークが開発できたのです。対称性とは、例えば「同じボールで、投げる力や角度が同じなら、時刻や場所が違っても、飛距離は同じ」というような不変性のことです。

宇宙誕生の謎の解明も期待

この「同変トランスフォーマ」は、あくまで量子色力学の計算システム全体の構築への第一歩です。効率的な計算システムが完成すれば、強い力の解明が爆発的に進むと予想されています。そして、素粒子の動きや性質の解明など、量子力学全体の発展が、宇宙誕生の謎の解明にもつながると期待されています。

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先生情報 / 大学情報

東京女子大学 現代教養学部 情報数理科学科 情報数理科学専攻 講師 富谷 昭夫 先生

東京女子大学現代教養学部 情報数理科学科 情報数理科学専攻 講師富谷 昭夫 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

素粒子論、格子ゲージ理論、機械学習

メッセージ

素粒子論が好きなら、ヒッグス粒子や重力に興味があるかもしれません。でも、物理学の中でホットなテーマは「強い力」です。スーパーコンピュータで行われている素粒子研究に割り当てられる計算時間のほとんどは、「強い力」のふるまいを探るための計算です。また、「数学のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞の中のミレニアム懸賞問題の一つが「強い力」に関する問題です。魅力的な分野なので、ぜひ、興味を持ってください。そして、この道に進みたいと思っているなら、プログラミングなど情報の知識もしっかり学んでおきましょう。

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東京女子大学現代教養学部は、全学的に国際性、女性の視点、実践的学びを重視した教育を展開しています。100周年を迎えた2018年に「国際英語学科」「心理・コミュニケーション学科」を新設。また、国際社会学科に新たに「コミュニティ構想専攻」を設置しました。キリスト教精神に基づくリベラル・アーツ教育で自ら考え、知識や能力を行動へとつなげ、社会に出てからも学び続け、さまざまな問題を解決する力を身につけたリーディングウーマンを育成します。