「人間社会」の病理に挑む! 21世紀の公衆衛生
公衆衛生の対象は「環境」から「人間社会」へ
「公衆衛生」の概念は、社会的な集団の疾病を予防し、感染症などの危険から人々を守るための環境の整備を目的として生まれました。そのため、公衆衛生は日本では役所の仕事というイメージが強いのではないでしょうか。日本はこの100年余りの間に、社会の総力をあげて衛生的な環境を作り上げました。上下水道が完備され、食品や飲料水の安全性も保たれており、生活環境は世界有数のクリーンさです。しかし公衆衛生の役目に終わりはなく、その対象は「環境」から「人間社会」に移ってきています。
人間の行動や社会構造が健康をむしばむ
昔の日本では、環境の衛生が人々の病気や死亡原因に大きく影響を及ぼしていました。しかし現在、生活習慣病に代表されるように、その人自身の行動が病気を引き起こす要因になっています。日本人の死亡原因で最も多いのはがんです。上位を占める肺がんはタバコという生活習慣が大きな因子となっており、肝臓がんは過去の輸血による肝炎感染という社会的因子が働いています。また高齢化が進み、認知症などの問題もクローズアップされ、児童虐待、家庭内暴力、経済や家族問題を背景にした自殺やうつ病の増加など、現代社会の抱える問題が、人々の体や心の健康をむしばんでいる時代なのです。
広い分野にわたる専門家の連携が重要に
21世紀の日本における公衆衛生の大きな役目は、これらの問題への取り組みです。医療や保健関係者だけでは、複雑に社会的要因がからみあった問題に立ち向かうことはできません。これまでは公衆衛生の分野とは直接関わりがなかった経済や法律、教育、心理などの専門家が連携し、人々を健康リスクから守るための施策や法律制定などといった、大きな枠組み作りをともなう取り組みが必要でしょう。つまり、これからの公衆衛生の分野では、行政の組織を熟知し、課題に沿って多くの専門家を的確にコーディネートする力が求められているのです。
参考資料
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