絵本から江戸文化をひもとく
アニメの進化と江戸戯作の進化
高校では取り上げられない古典にも面白い物がたくさんあります。その中から江戸文学の世界を紹介しましょう。昔は「赤本」(あかほん)という子ども絵本が多く出版されていました。内容は「桃太郎」や「さるかに合戦」といった童話から、お化けの話までいろいろ。それが次第に「黄表紙」(きびょうし)という、大人が楽しむ知的な笑いの江戸戯作へと進化していきます。
このように、最初は子ども向けだったものが大人向けへと進化していくのは、江戸時代に限った事ではありません。例えばアニメ。子ども向けだった「テレビまんが」が知的に成長して今の地位を築いたのは、皆さんの知っている通り。同じ現象が、江戸時代にも起こっていたのです。
「さるかに合戦」に包丁が?
まずは江戸時代の子ども絵本「赤本」の世界。「さるかに合戦」で猿退治の場面を思い出してみましょう。いろりから焼けた栗が飛び出して、熱い熱いと水がめに近づいた猿を蜂が一刺し。さらに家の外へ出ようとした猿を、臼が押しつぶすという場面です。
しかし「赤本」では、見慣れない人物(?)が出て来ます。いろりから出てくるのは栗ではなく玉子。水がめで待っているのは蜂ではなくて、なんと包丁です。なんだか残酷に思うかもしれませんが、これは作者が創作した、というのではなく、当時の昔話にバリエーションがあったもののようです。
ウナギの絵に隠された笑いとは?
次に大人向けへと進化した「黄表紙」の世界。例えば、『小人国毀桜』(こびとしまこごめざくら)という作品には、小人の国の人たちが、ウナギの蒲焼きを作っているシーンが描かれています。ウナギは普通の大きさなのに、小人たちが大勢でタレを塗ったり、炭火で焼いたりしている姿がユーモラスです。
ただし知的な読み物なので、作者の工夫はこれだけではありません。実はこの絵は、当時漁村でよく行われた、鯨を解体する図が下敷きになっています。知的な絵本の作者は、「わかる人だけが笑える」というレベルの仕掛けをコッソリまぎれ込ませていたのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。