運動スキルは脳の機能で決まる

運動スキルは脳の機能で決まる

脳から指令が出ている

運動が上手かどうかは、身体(筋肉や骨格など)の問題ではなく、脳にその原因の所在を求めなければなりません。運動のときどきで、筋肉をどのように活動させるか、あるいは無駄に活動させないかなど、脳で作られる運動プログラムが運動スキルの本質と言えます。運動する際の最終的な段階では、大脳皮質の1次運動野が活動し、その出力を受ける脊髄の運動ニューロンが筋肉へ指令を出力します。さらに、この1次運動野や脊髄のニューロン活動をコントロールする部位として、運動前野、補足運動野、小脳、大脳基底核、脳幹などがあり、それぞれ重要な機能を持っています。その中で小脳は、運動を協調して素早く正確に行うために重要な役割を果たしていますし、運動を学習・記憶する際に大変重要な機能を有しています。

経験でつくられる運動プログラム

テレビでスポーツ観戦している際に、このシュートは入るか、あるいはピッチャーが投げた球種はストレートか、カーブかなど予想したりすることは大変楽しいですし、それが当たればよりゲーム観戦に熱が入ることでしょう。例えば、バスケットボールのフリースローの、一連の動作の最初から最後まで(ボールが手から離れるまで)の動画を被験者に見てもらい、ボールが入るかどうか予想してもらう研究があります。最初から最後まで見れば、多くの人はボールが入るか予測できますが、一流競技者では、その最初の部分だけを見れば予測が可能です。このような運動の結果の予測には、実際の運動の際に機能している運動プログラムが重要な役割を果たしていることが最近わかってきました。

運動オンチは遺伝か?蛙の子は蛙?

分子生物学や遺伝子工学の発展により、小脳のプルキンエ細胞というニューロンに発現している種々のタンパク質、特にグルタミン酸受容体の運動の制御機能・学習機能に果たす役割が、かなり解明されてきています。研究には、遺伝子を変異あるいは欠損させたマウスを用いてきましたが、今後はヒトの遺伝子で調べることが重要になってきます。

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東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻生命環境科学系 教授 柳原 大 先生

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻生命環境科学系 教授 柳原 大 先生

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メッセージ

スポーツ科学や、身体運動が介在する健康科学という分野は、現在では学際的な発展をしています。例えば分子遺伝学、分子生物学、生体工学、ロボット工学などとも密接なつながりができてきました。研究手法も実験だけでなく、コンピュータ上でのモデリング、ロボット実機での検証に至るまで幅広く行われています。いろいろな分野での社会貢献も期待されています。また健康科学は、オリンピック選手のためではなく一般の人も対象にした、運動を科学的に探究していく分野です。ぜひ共に学び、すべての人の健康づくりに貢献していきましょう。

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東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。