フランス人が能を上演したら? 20世紀の『羽衣』を例に考える
「羽衣まつり」のルーツはフランス?
静岡県三保松原では屋外で能楽の『羽衣』を上演する「羽衣まつり」が行われています。実は発足には、フランス人ダンサーのエレーヌ・ジュグラリスが深く関わっています。エレーヌは1949年に『羽衣』をフランスで上演しましたが、その後若くして亡くなりました。夫のマルセルは三保松原を訪れ、エレーヌがどれだけ『羽衣』を愛していたのかを語りました。これをきっかけに開催されるようになったのが「羽衣まつり」です。三保松原にはエレーヌの記念碑も建てられており、フランスと日本は能を通じた交流があるのです。
能を上演する難しさ
エレーヌは日本の着物や面を使って能を上演しようとしましたが、問題もありました。日本人と骨格が違うため、面をつけると鼻を痛めてしまうのです。そのためエレーヌは稽古では面を外し、本番だけ面を着用していました。
翻訳の難易度も高いものでした。能は室町時代の言葉でセリフが書かれているため意味を理解することが難しく、和歌のような日本語特有のリズムを再現することもほぼできません。しかしエレーヌが出演した『羽衣』では、可能な限り日本語のリズムに近い翻訳を試みたことがわかります。
国際的な視点で見る能
能は2008年にユネスコの無形文化遺産に登録され、海外でも関心が高まっています。しかしフランスではすでに20世紀から能の研究や上演が行われていました。これは20世紀初めに早稲田大学で発足した能楽文学研究会にフランス人が参加していたことが影響しています。世阿弥の能楽伝書も翻訳され、フランスの多くの劇作家が読み込みました。少ない体の動きで伝える、劇に込める思想を重視するといった能の特徴は、アバンギャルド演劇にも見受けられます。一方、20世紀のフランスではオリエンタリズムへの関心も高かったため、フランスで上演された能では登場人物がアラビア風の服装を着ているなど、フランス人の持つアジア的なイメージを詰め込んだ能が生み出されていたのです。
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帝京大学 外国語学部 国際日本学科 講師 ビューニュ マガリ 先生
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