宇宙初期の爆発的な膨張を明らかにする「宇宙背景放射」
宇宙初期のインフレーションと宇宙背景放射
宇宙のはじまりでは、高温、高密度の高いエネルギー状態にあった宇宙が、爆発的に膨張したと考えられています。これをインフレーション理論といいます。高温の状態で発せられた光は、宇宙膨張によって波長が伸びます。この光は「宇宙背景放射」と呼ばれ、今でも宇宙に残っていて、地球にも降り注いでいます。それを観測することで、宇宙のはじまりにおける宇宙の密度を計測することが可能です。その密度は均一ではなく偏りがあり、これは量子力学の「量子ゆらぎ」としてとらえることができます。したがって、宇宙のはじまりは量子力学で考察することが可能です。
宇宙形成の核となる量子ゆらぎ
量子ゆらぎがあるとそれが核となって、宇宙の長い歴史の中で重力によって塵(ちり)などが凝集(ぎょうしゅう)して星が形成されます。星が集まれば銀河ができ、さらに銀河団が形成されます。現在の宇宙の形成には、量子ゆらぎがあることが必須なのです。
観測は、超電導技術を搭載した高性能な電波望遠鏡で行われます。この望遠鏡は、水蒸気と酸素を嫌うため、標高5000mにあるチリのアタカマ高地などに設置されています。観測データを分析すれば、宇宙の膨張によって、どの時期にどの程度のスピードで宇宙が引き離されたかがわかります。そこから、それに費やされたエネルギーも算出することができます。
物理学理論の重要命題を実験で証明
インフレーション理論は、理論的にも観測事実としても、証明されているわけではありません。しかし、宇宙背景放射の観測によって、インフレーションの事実が明らかになれば、証明されたことになります。また、これまで困難とされてきた重力の量子化の証明にもなります。さらに、地球上では宇宙の初期にあった高エネルギー状態を再現することはできませんが、観測で宇宙の初期に、素粒子物理学でいう大統一理論のエネルギースケールが存在したことが明らかになります。物理学理論の重要な命題の証明にもつながるのです。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 理学部 准教授 田島 治 先生
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