植物と共生し、助け合うバクテリアの正体とは?

植物と共生し、助け合うバクテリアの正体とは?

荒れた土地でも育つマメ科の植物

早春の田んぼにレンゲソウが咲いているのをよく見かけますが、それには理由があります。通常、植物が育つために必要な栄養素は、主に窒素、リン酸、カリウムですが、レンゲソウなど、マメ科の植物は窒素がなくても育ちます。つまり、栄養に乏しい荒れた土地でも育つのです。この性質は昔からよく知られていて、中国では紀元前の漢の時代の書物にも記録されています。マメ科の植物は空中の窒素ガスを取り込んでアンモニアに変え、タンパク質や核酸を作り出すための栄養を得ることができるのです。これを「窒素固定」と言います。農業ではこの特性を利用して、レンゲソウを土に鋤(す)き込むことで、土地に栄養を与えています。

植物と根粒菌との不思議な関係

レンゲソウはなぜ窒素を利用することができるのでしょうか? マメ科の植物の根には、コブのようなものがたくさん付いています。これが根粒(こんりゅう)です。根粒には、「根粒菌」というバクテリアが棲みついて共生し、これが窒素ガスをアンモニアに変換しているのです。
つまりマメ科の植物は、もともと土の中に居る根粒菌を取り込んで利用していることになります。マメ科の植物と根粒菌はうまく共生しているように見えますが、そう簡単なわけではありません。植物も、根粒菌もお互いに信号を出し合って、相手を何回も確認しあうのです。これを「相互認証」と言います。そして、少しずつ歩み寄りながら、植物と根粒菌は共生するようになります。マメ科の植物も、根粒菌も、実は単独では窒素ガスを利用できないので、助け合う必要があるのです。

環境問題に役立つ可能性を探る

昔から行われてきた植物を肥料に利用する方法も、1900年代に入り、窒素肥料が人工的に作られるようになったため、盛んではなくなりました。また人工合成窒素肥料を用いることで、作物の生産量は増えますが、環境汚染の問題も発生しました。これからはマメ科の植物と根粒菌の共生メカニズムをうまく応用することで、環境に優しい農業の実現が期待されています。

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奈良女子大学 理学部 化学生物環境学科 教授 佐伯 和彦 先生

奈良女子大学 理学部 化学生物環境学科 教授 佐伯 和彦 先生

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理学部では、技術だけを習得してもすぐに古くなります。例えば私の学生時代、DNA配列を決めるというだけでも最先端の学問になりました。ところが、20年足らずの間にそれは簡単にできるようになり、もはや単なる技術で、サイエンスとは言えません。理学部の研究スタイルは、技術を直接利用するというよりも、その仕組みを理解すること、つまり原理を理解し、方向性を見つける点にあります。このような考え方を身につけようというマインドがあるなら、ぜひあなたも一緒に学びましょう。

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