社会システム科学が教えてくれる理想的な避難経路
分析しないで、全体を丸ごと理解する
木が一本だけ生えている場合と、たくさん集まって森になっている場合とでは、生育環境が大きく違います。まわりに木が増えてくると、当然光の当たり方などが変わってきます。すると光の当たり方の変化が、今度は木の生え方に影響を与えるのです。
従来の科学では、ものごとを細かく分解し、できる限り小さな単位で分析して理解していました。しかし、このやり方では、一本の木についての知見は得られても、森全体の姿をとらえることはできません。そこで全体を一つのシステムとしてとらえ、個と全体の関係を総合的に理解しようとする研究手法が生まれました。
人が一人のときと、集団になったときの違い
こうした研究結果が応用されているのが、例えば公共施設の避難経路の設計です。人は一人で避難するときは、案内サインに従って正しい方向に向かいます。ところがたくさん人が集まってくると、ほかの人たちの動きに左右され、単独時とはまったく違った行動を取ることがあります。
そもそも避難経路は多くの人を安全に避難させるために作られるものです。ですからその設計では、人が集団で動いた場合に、理想の経路からどうズレるのかを織り込んでおく必要があります。
心理学の知見を使ったシミュレーション
では、単独行動と集団行動とのズレは、どうすれば把握できるでしょうか。実際に人間を使って実験することは難しいので、コンピュータを使って擬似的な実験を行います。
まず人間が特定の状況でどのような動きをするのか、心理学の知見をデータ化してコンピュータに取り込みます。そしてコンピュータの中に特定の環境を作り、取り込んだデータをもとにして人間の動きをシミュレーションするのです。仮想空間で動かす人の数を増やせば、相互にどんな影響を与えるのか、その影響によってさらに個々の行動がどう左右されるのかを予測することができます。社会システム科学では、こうした研究に取り組んでいるのです。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 国際人間科学部 グローバル文化学科 教授 村尾 元 先生
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