フィールドワークで地球規模の健康をめざす! 人類生態学の可能性
人類生態学の視点で考える「健康」
世界保健機関(WHO)憲章は、健康を、「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」と定義しています。人間には食物となるほかの生物や、生命を維持できる気候、水、居住空間が必要なので、うまく環境を利用しながら暮らしていかなければなりません。また、人間は言語を使い社会組織を作って、相互にコミュニケートして生活しています。人類生態学の視点では、自然環境とヒトの集団が、言語や技術や社会組織を介してうまく相互作用し、そのシステムが長期的に維持されることが人間の健康につながると考えます。
半ズボンが招くマラリア感染
地球規模で健康を考えるとき、感染症対策は非常に重要です。しかしどんな手立てが最も効果的か、現地の社会システムとうまくバランスが取れるのかなどを調査しないと、現地の人の健康につながりません。マラリアがたびたび流行するガダルカナル島では、マラリア原虫を媒介するファロウティ・ハマダラカは、日没後2時間に、屋外で、もっとも活発に吸血します。この時間帯の村人の行動や衣服をくまなく観察調査したところ、半ズボンの人が長ズボンの人に比べてマラリアに罹りやすいことがわかりました。
フィールドワークとモデリングの組み合わせ
では、仮に村人全員が長ズボンをはいたらマラリア感染率はどうなるでしょうか。コンピュータでシミュレーションを行うと、70%未満の着用率ではほとんど効果がありませんが、もし95%の人が着用すれば2年以内にマラリアをこの地域から根絶できるという結果が出ました。しかし現実問題として、95%の人に長ズボン着用を強いるのは、コスト面からも人道的にも不可能です。例えば乳幼児に日没後の屋内では靴下を履かせるなど、別の対策を考えるべきでしょう。このように地道なフィールドワークとモデリングを組み合わせて、国際協力がもたらす結果を多面的に評価することは、今後ますます重要になってくるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 医学部 保健学科 教授 中澤 港 先生
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