植物の「全能性」とそれを利用した遺伝子組換え植物の作り方

植物の「全能性」とそれを利用した遺伝子組換え植物の作り方

クローン植物を作るのが容易なわけ

iPS細胞は、体のどの細胞にもなりうる細胞として、現在その技術開発がとても注目されています。これは動物の細胞に関する技術ですが、植物の細胞ではどうなのでしょうか。
実は、植物の細胞はどこから採っても、このiPS細胞のようにあらゆる組織になり、完全な個体になりうる能力を持っています。この性質を植物の「全能性」と言います。この性質があるため、枝を切って土にさして水をやれば、やがて根が出て、元と同じ植物、つまりクローンができます。日本全国に植えられている桜、「ソメイヨシノ」もそうやって増えた植物です。

培養で細胞を育てる

昔から知られているこの性質を科学的に研究する場合、細胞培養の技術で植物の組織を育てます。培地には栄養や植物ホルモンが含まれていて、その成分をコントロールすると、根だけを育てたり、葉だけを育てたりすることができます。また、根でも葉でも花でもない細胞のかたまりを作ることもできます。これを「カルス形成」と言います。
植物の培養では、受精をせずに胚を形成することもできます。胚は、自然界では種子の中にあり、将来芽や根に育つ部分ですが、受精というプロセスを経ずに胚ができるという現象は、生物としてとても興味深いものです。なぜこんなことが起きるのかはまだわかっていません。しかし、植物の全能性が関わっているということは言えるでしょう。

遺伝子組換え植物はどのように作るか

植物の遺伝子組換え技術も、この性質がなくては実現しません。
遺伝子組換え植物を作るには、まず、ある植物の一つの細胞の遺伝子を組換えます。培養の技術で、その細胞が分裂し数が増えたら、そこから芽になる細胞を育てます。芽が出た組織から根を生やせば、新しい遺伝子組換え植物ができるのです。
遺伝子組換え植物は、食料の増産にもつながる重要な技術です。そして、それを可能にしているのが植物の全能性なのです。

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横浜市立大学 理学部 理学科 准教授 塩田 肇 先生

横浜市立大学 理学部 理学科 准教授 塩田 肇 先生

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植物生理学

メッセージ

植物でも動物でも、生物は観察すればいろいろなことが発見できます。身近な自然現象を観察し、それを調べていくことは人生の楽しみになります。研究を趣味にして、休みの日に取り組めば、それが一つの成果となるのもあながち不可能ではないと思います。
私は、たまたま高校時代の恩師が研究を楽しんでいる様子を見せてくれたのが、植物科学の道に進むきっかけになりました。今はオープンキャンパスや模擬講義など高校生でも研究者に接する機会が増えているので、積極的に動けば何か得るものがあるはずです。

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