パンの小麦は、遺伝子の偶然の出会いから生まれた

パンの小麦は、遺伝子の偶然の出会いから生まれた

パンを作る小麦とパスタを作る小麦の違い

あなたはパンやパスタを小麦粉から作ったことがありますか? もしもこれから作ろうと思ったら、買ってくる粉が「パン用」か「パスタ用」なのか、よく見て買わないと大変なことになります。パンを作る小麦粉でパスタを作ると、あなたがよく食べているような食感にはなりません。パスタを作る小麦粉でパンを作っても、ふっくらしたパンにはなりません。なぜなら、それは全く別々の植物から作られた性質の違う小麦粉だからです。

マカロニ用の小麦からパン用の小麦が生まれた

パスタを作る小麦をマカロニコムギと言いますが、人類が古くから育てているこの小麦に、8000年ほど前に偶然「タルホコムギ」という野生小麦の花粉が交雑しパンコムギが生まれました。動物は通常、違う種類の親から子孫は残せませんが、植物には別の植物と組み合わさっても染色体を倍化し、新しい植物を生み出して子孫を残すという特徴があります。これを「倍数性進化」と言います。マカロニコムギも、そもそも野生の小麦が交雑し染色体が倍数化して生まれた四倍性小麦なのです。四倍性マカロニコムギに、二倍性のタルホコムギが交雑してできた六倍性パンコムギは、祖先の三倍の染色体をもっています。
タルホコムギはパン作りに欠かせない良質なグルテンの遺伝子をもち、この特性が加わることで、ふっくらしたパンが焼ける新しい小麦が誕生しました。野生小麦のたくましさも加わり、現在ではパンコムギが世界中に広がりました。自然界での偶然な出会いが人類の生活を支える食品を生み出したのです。

植物のさまざまな可能性を探る

このように、植物の遺伝子にはさまざまな特徴があります。今食べられている野菜や穀物は、遺伝子のすべてが解明できたわけではありません。まだまだ人類が気づいていない特徴もあります。それを調べ解明し、特徴を生かせれば、今まで育たなかった環境でも育ったり、病気になりにくかったりする品種ができる可能性があります。それは特定の国だけではなく、人類共通の財産となるのです。

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横浜市立大学 理学部 理学科 教授 坂 智広 先生

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植物学、遺伝学、農学

メッセージ

あなたは大学4年間を過ごした後にどんな自分でありたいですか。夢の実現のために「やらされる勉強」ではなく、「何ができるか」という視点で大学を選んでほしいです。生物に興味のある人は、幼いときに感じていた生き物が好きだという気持ちや、「何だろう?凄い!」とわくわくした気持ちを忘れないでください。研究や人生には、決められた道や地図はありません。新しいチャレンジは必ず壁にぶち当たります。そこからどうやって進むのかを必死で考える、10のうち9失敗しても1つできることがあれば、それを10に育てればいいのです。

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横浜市立大学は、「実践的な教養教育」を導入しています。高度な専門知識を教養教育を通じて身につけ、バランスのとれた人材育成を図る教育システムです。日本を代表する国際港湾都市に位置する大学として、世界に羽ばたく人材の輩出を目的に、国際感覚を養うさまざまな取り組みも充実しています。個々の可能性を最大限引き出すための厳しい教育プログラムを愛情を持って進めていきます。