自然の中で行動をコントロールする牛や馬の放牧飼養
行動を予測・制御して効率化と生産性向上
畜産学の分野では、牛や馬などの家畜を放牧し、栄養管理をしながら行動を把握・制御することで、効率化や生産性向上につなげる研究も行われています。放牧地での採食や休息など家畜の行動には、季節や天候、植生や草量、地面の傾斜、日当たりや風通しなど様々な環境要因が関係しています。行動の把握において、特に大事なのが繁殖管理です。自然放牧の場合は交配の確認や分娩の予測がつきにくいのですが、家畜がいる場所を予測して見回ることで、効率的に発情を発見でき、自然分娩時に起こり得る事故の防止にも役立ちます。
AI導入が転機となる可能性も
AI(人工知能)の技術を活用できれば、家畜の行動パターンの把握はより効率的になるとみられています。しかし、放牧飼養の場合、広大な敷地のデータ管理に対応できるシステムの精度やコストの問題があります。そして何より、家畜にGPSなどの管理装置を取り付けることは、木に引っかかって外れたり、壊れたり、またケガなどのリスクもあるため、まだ実現には至っていません。しかしこれらの問題が解決されれば、放牧地での行動把握のひとつの突破口となる可能性も秘めています。
食文化の広がりにも影響
和牛の98%以上を占める黒毛和種や、ホルスタイン種を含む国産牛肉は、輸入した穀物を餌として生産され、食味が良いのが特長です。一方、和牛のひとつである日本短角種は、牛が元来餌としている草でよく成長し、乳量が黒毛の倍近くあることがわかってきました。これは家畜の種類・品種や用途に応じて、適した飼い方や消費の仕方があることの裏付けとなりえます。このことからも、放牧地における家畜の行動把握の研究は、効率化や生産性向上に寄与するだけでなく、食文化の多様性をもたらす一端を担っています。
近年、大きな話題となっている「SDGs(持続可能な開発目標)」ですが、国産の草を餌とし、限りなく自然に近い環境で飼育する方法は、この言葉が世に出る数十年前から当たり前のように研究され続けているのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 准教授 河合 正人 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
畜産学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?