人がダンスに心ひかれるのは「魔法」のせい?
ダンスで世界の見方が変わる
ダンスの魅力とは何でしょう。「美学」という視点でとらえると、それは見る者を引きつけてやまない「魔法」のような力だと言えます。
ミュージカル映画『雨に唄えば』の中に、ジーン・ケリー演じる主人公ドンが雨の街を踊り歩くシーンがあります。街は雨でも、彼の心は晴れています。高揚感にあふれているため、勢いあまって街灯を相手にダンスをしたり、ポスターの女性を観客に見立てて踊って見せたりと、体じゅうで喜びを表現し始めます。すると不思議なことに、彼が歌いステップを踏み続けることで、映画を観ている人にもあたかも街灯が彼のダンスのパートナーであるかのように、そして雨一色の街が輝いて見えてきます。彼が踊ることで、観客にもそれまで見えていた世界とは異なる世界が開けてくるのです。
人であって人でないモノ?
このような、見る者を現実から異世界へと誘(いざな)う「力」は、祭儀的な踊りから、能などの伝統芸能、バレエやモダン、コンテンポラリーダンスに至るまで、どんなダンスにも備わっています。
同時にダンスには、人間という存在自体を異なるモノへと変化させてしまう「力」もあります。身近なところでは、人気ポップユニットPerfumeのテクノ的なダンスが一つの例です。彼女たちは、ロボットさながらの無機質で非人間的な動きをすることで、「人であって人でない体」を手に入れます。その現実とどこか「ずれ」のある体の、一種独特な存在感が見る者を引きつけるのです。
枠を取り払って「生」と向き合う
人は日々の生活の中で、世界や人のあり方を、知らず知らず「常識」の枠にはめ込み、生きるという行為そのものに対しても、新鮮さを見失いがちです。そんな固定化した枠組みを一瞬のうちに取り払い、新しい視野を開いてみせることができるのが、ダンスの魔法なのです。踊る体を通して、見る者に生きるということの意味を改めて考えさせる、そんな大きな力があると言っていいでしょう。
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