楽譜の謎解き 作曲家が込めた意図を読む

作曲家の意図をくみ取る
楽譜は、作曲家が記号や符号を用いて楽曲を表現したものです。「楽譜は音楽の設計図」とも言われますが、建築の設計図のように隅々まで正確に書き表されてはいません。設計図は寸法は数字で書かれていますし、色も色見本の番号を書けば同じ色が再現されますが、楽譜ではそうはいきません。具体的な音量や音色を示すことはできない、つまり作曲家の意図を完全に書き表すのは不可能なのです。そのため、作曲者の意図をくみ取るには、まるで文章の「行間」を読むように楽譜に向かい合うことが求められます。こうした過程で試行錯誤を重ねながら表現を模索することは、演奏の楽しみであり、力量が問われる瞬間です。
時間の揺らぎ
音楽は時間芸術ですから、どのように時間を使うか、ということはとても重要なことです。しかし音符や休符の長さは2倍、4倍……という関係になっていて、例えば8分音符より短い音符は16分音符になりますが、その中間の音価(例えば13分音符など)は存在しないので、微妙なリズムは記譜することが出来ません。ハーモニーや旋律の音型、その他の情報から大切な音とそうで無い音を見分けて、音楽的な揺らぎを伴ったテンポ、リズム感を見つけることが必要です。
和音に込めた思い
J.S.バッハ作曲の「無伴奏ヴァイオリンのためのフーガ」には、4つの音からなる和音が記されている箇所があります。しかし、ヴァイオリンは構造上、4音を同時に鳴らすことはできないため、アルペジオ(分散和音)として弾くことになり、単音よりも演奏に時間がかかります。従って、バッハはこの和音で音の厚みを出すのではなく、時間をかけて演奏してほしいという意図を込めていた可能性も考えられます。後にバッハがこの曲をオルガン用に編曲した際に、この部分は和音は3音に減らされていますが、ペダルで演奏する16分音符の音型が追加されています。そこで、この部分は時間をかけて演奏して欲しい、という意図を読み取ることが出来ます。
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先生情報 / 大学情報

愛知県立芸術大学音楽学部 音楽科 器楽専攻 弦楽器コース 教授桐山 建志 先生
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