水の惑星・地球の水循環の詳細は、「水の同位体」が教えてくれる

水の惑星・地球の水循環の詳細は、「水の同位体」が教えてくれる

複雑な地球上の水循環

地球は、「水の惑星」と言われるほど、豊かな水に恵まれています。この水は、気体、液体、固体と姿を変えながら、地球上を循環しています。
この水の循環は非常に複雑で、わかっていないことがたくさんあります。例えば東京で降る雨がどこからきたものなのか、森林を伐採するとどんな影響が降水に表れるのか、さらに、いつどのくらいの量の降水がどの地点で起こるのか、などの予測もじゅうぶんにできないのです。

水循環の様子を教えてくれる「水の同位体」とは

こうした複雑な地球上の水循環の様子を教えてくれるものの一つに、「水の同位体」があります。
「同位体」とは、質量数のちがう元素のことです。水は通常「H₂O」で表されます。ところが水の中には「H₂ 18O」や「HD 16O」などで表される「安定同位体」と呼ばれるものが含まれているのです。
水の同位体は、質量数が「H₂O」より大きいので「重い水」と呼ばれます。重い分だけ常温付近では「H₂O」より蒸発しにくく、凝固しやすいものです。

「タイムカプセル」のような情報の宝庫

「重い水」に注目することで、地球上の水循環の様相を探ることができます。例えば、水蒸気の中の「重い水」は、液体(雨)になりやすいため、結果として赤道付近の低緯度や低地で降る雨は重い水の含有率(同位体比)が高く、高緯度や標高の高いところでは低くなります。また大気は移動するため、同じ場所でも日によって同位体比は変動します。
こうしたことを詳細に調べたり、シミュレーションしたりすることによって、ある地点で降った雨がどこからきたのか、いつ水蒸気になったのか、などを解明することが可能になります。
さらに、数十万年も前に凍結した南極の氷や、数百年間生きている樹木の水由来の成分の同位体を調べることによって、その時点の地球上の様子を探ることもできます。人類が観測を始める遥か以前の地球の情報が得られる点で、水の同位体はまさに「情報のタイムカプセル」なのです。

参考資料

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東京大学 生産技術研究所 大規模実験高度解析推進基盤 教授 芳村 圭 先生

東京大学 生産技術研究所 大規模実験高度解析推進基盤 教授 芳村 圭 先生

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