私たちは日本語のきまりや仕組みをすでに知っている
「ちっとも」と「さっぱり」の違い
「ちっともわからない」と「さっぱりわからない」、この2つの文は、ほとんど同じ意味に見えます。ならば「ちっとも」を使った文は、すべて「さっぱり」に置き換えることができるかというとそうではなく、「あの絵はちっとも美しくない」とは言いますが、「あの絵はさっぱり美しくない」という言い方はしません。また、「英語がさっぱり読めない」とは言いにくいのですが、「英語がさっぱり読めるようにならない」ならば自然です。このような文例をたくさん作っていくと、「ちっとも~ない」という文が単純に否定を表しているのに対して、「さっぱり~ない」のほうには、変化のニュアンスが含まれるのだということがわかってきます。
日本語における意味論
このようにことばの意味を考える学問が、日本語学の中で「意味論」と呼ばれるものです。ことばというものにいろいろな側面があるように、日本語学にも音声、語彙、文法、方言、日本語史など、さまざまな分野があります。意味論というのは、その中でも、日本語の意味について考える学問です。ことばの意味というと、なんだかとらえどころがないように感じるかもしれません。しかし、「ちっとも」「さっぱり」の例のように、私たちは、文を作るときに無意識のうちに一定のきまりに従ってことばを選んでいます。つまり日本語の意味論というものは、実は私たち自身がすでに知っている日本語という言語のきまりや仕組みを深く探っていく分野なのです。
日本語学は一種の科学
このように、私たちがすでに知っていることばに関するさまざまなことがらを、きちんと説明できるように掘り下げるのが、日本語学の研究方法です。そのために、例えばあることばがある状況で使えるか、実際に文を作ってみて繰り返し検証します。仮説を立て、実験し、検証して先に進む日本語学は正に一種の科学です。身近だけれど奥が深い、高度な実験器具など必要とせず、紙と鉛筆さえあればどこででも研究できる学問なのです。
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