人が言葉を発する直前の脳の働きを解明する
言葉が口から発せられるまでの過程に注目
私たちは毎日ごく当たり前に人と会話をし、自分の意見を述べたりしていますが、頭の中にある考えを言葉として発する際、脳ではどのようなプロセスが働いているのでしょうか。
人は成長の段階でさまざまな単語を習得し、知識として蓄えていきます。つまり頭の中に辞書を作っていくわけですが、これを「心的辞書(メンタルレキシコン)」と呼んでいます。言葉を発するときにこの辞書は役立ちますが、たいていの人は、話す事柄すべてを頭の中で暗記してから話しているのではなく、話し始めると同時に、文章を頭の中で次々に組み立て話すのです。文章を書くときも同様で、書いているうちに「私はこういうことが書きたかったのか」とわかったりするものです。これは、声が出始める前、あるいは言葉としてアウトプットする直前に、脳が何らかの働きをしている結果だといえます。
脳が持つ「見えない」情報を顕在化させる
こうしたメカニズムを解明する一つの手がかりとして、声を出す直前に脳が持っているはずの「見えない」情報を、どれだけ顕在化できるかという研究が行われています。この「直前の情報」には、発話する内容だけでなく、それらを音として発するための運動情報も含まれます。発話という動作を行う際、「これからこうした音が発せられます」という情報が、それらの動作を司る脳の部所に伝達されるのです。
脳の働きが発話に与える影響
脳からこうした情報が伝えられるおかげで、人は自分の声を正しいタイミングで聞きながら発話することができます。考えるときに使っていて、表出しない言葉を「内言」と言いますが、内言を使っているときにも話をしているときと共通した脳の働きがあると考えられています。脳の働きを調べることで考えること(思考)と言語の関係性に迫る試みが始まっています。深く突きつめていくと、人が当然のように話していること自体、非常に不思議なことなのです。この「不思議」をいかに解明していくかが、言語科学の面白さの一つでもあります。
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