高齢者の「知恵」が注目されている
「超高齢社会」という未知の領域
今から100年以上も前、ドイツの宰相ビスマルクが、年金支給制度を創生した際、受け取る人の少なさを考慮し、「65歳以上」を一つの基準として提示したと言われています。そして現在も、WHO(世界保健機関)では、65歳以上を高齢者と定義しています。ところが、私たちの身の回りにいる65歳ぐらいの人を見ていると、見た目も心も若々しく、高齢者という言葉に違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。100年前は65歳まで生きる人はごく少数でしたが、今の日本の平均寿命は男性が約80歳、女性が約86歳となっており、高齢者のイメージも大きく変化しています。そして、これから私たちは、人類がかつて経験したことのない超高齢社会という未知の領域へ踏み出していくのです。
98歳の詩人が証明した言語性知能の維持・発達
過去の研究では「知能」は20歳をピークに、下降していくと思われていました。しかし、その後の研究では、言葉に関する「言語性知能」は高齢期になっても維持・発達していくとされています。実際に詩人の柴田トヨさんは、90歳で創作活動を始め、98歳で出版した著書『くじけないで』はベストセラーにもなっています。また、1950年代頃から、心理学者のエリクソンは「人の心は生涯にわたって発達する」という「ライフサイクル理論」を提唱しました。つまり、高齢期であっても心は成長・変化すると考えられているのです。
高齢者が培ってきた「知恵」の力を活用
高齢期の心の働きについて研究するうえで、注目されているキーワードのひとつが「知恵」です。「知能」は今現在の問題を処理する問題解決能力を指しますが、「知恵」は、その人の人生経験や蓄積された知識に基づきながら、将来を見通していく力と解釈することもできます。高齢者が自ら培ってきた知恵を発信し、世代を超えて共有することは、未来の社会のあり方だけではなく、自分たちがどう生きていくかを考えるヒントを提示してくれる重要なテーマと言えます。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 生活科学部 人間福祉学科 准教授 篠田 美紀 先生
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