人生の節目を彩る、東南アジアの上演芸術
人生や生活に密着した上演芸術
東南アジアには、物語に節をつけて語る「語り物」の伝統が豊富にあります。これが舞踊や音楽と結びついて影絵人形芝居、舞踊劇、仮面劇などの総合的上演芸術が生み出されてきました。特に人形と仮面を用いる上演芸術が多いことが特徴です。
例えばインドネシアでは、人形劇や影絵が人々の生活に密着した形で行われます。稲作農耕の地域では、田植えから収穫までのサイクルに合わせ、時季ごとに上演プログラムが決まっており、それらを演じる芸能集団を村に住まわせている地域もあります。また人が生まれてから死ぬまでの間、人生の節目にあたる儀礼に沿ってさまざまな上演が行われます。出産祝い、男子の宗教上の儀式である割礼(生殖器の包皮を切除する風習)の祝い、成人式や結婚式、葬式など、人の一生の中に芸能や音楽が根付いているのです。
オールナイトで上演される影絵芝居
インドネシア・ジャワ島の影絵「ワヤン・クリット」は、水牛の皮に彫刻と彩色をした人形を使い、布スクリーンに影を映し出します。上演時間は夜の8時から翌朝4時くらいまでで、「ダラン」と呼ばれる語り手兼人形つかいが総勢20人ほどの音楽家を従え、一人でたくさんの人形を操りながら声色を変えて登場人物を演じ分け、さらに演奏者に指示を出して合奏をリードします。一晩中の上演を取り仕切るダランには、並はずれた技術と精神力が必要で、そのための修行と鍛錬を積んでいかなければなりません。
メディア効果でエンターテインメントとしても浸透
日本の場合、能や人形浄瑠璃は劇場へ足を運んで観ることが多いものですが、インドネシアの人形劇や影絵は近隣の町や近所の家に集まって観る身近なものです。評判の芸人が呼ばれると口コミであっという間に広がり、観客が押し寄せて周辺がひどい交通渋滞に見舞われることもあります。また人形劇や影絵はテレビでも放映され、VCD(ビデオシーディー)という映像メディアが出回るなどして、エンターテインメントとしての楽しみ方も増えています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 人間科学部 社会学科目 人類学分野 教授 福岡 まどか 先生
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