自然にも人にもやさしい川づくり
多自然川づくりとは
日本には海や川、湖などの水辺で暮らす地域がたくさんあります。その中で、例えば氾濫を起こす川をいさめ、周辺の人々が安心して住むことができる環境をつくることは重要なテーマです。
近年の河川工事では、「多自然川づくり」が基本とされています。多自然川づくりとは、洪水を防ぐと同時に自然環境や景観、人々の生活に配慮して河川を整備することです。
多角的な視点から川を調査する
鹿児島県のさつま町を流れる「川内川(せんだいがわ)」は九州で2番目に大きな川で、さつま町は度々この川の氾濫に悩まされてきました。2006年の記録的な豪雨では、さつま町がすべて水没するという被害をもたらしたのです。上流にダムができてから2度目の災害ということもあり、地域住民の行政に対する不満は爆発寸前でした。
河川の復旧工事で、まず行うのはさまざまな調査です。住民への聞き取りや、過去の工事の検証、さらに実際の川幅や水量、生態系など、いろいろな視点からその川についてのデータを集めていきます。
川と人の共生を実現
川内川の場合、氾濫が繰り返し起こる原因は、城跡をぐるりと周るような「流れのデザイン」にありました。そこで、川の水量が増えたときだけ、水を逃がすような「分水路」をつくることにしたのです。しかも、コンクリートで固める従来型の直線的な工法ではなく、歴史・文化を受け継いだ石積みの工法を採用し、自然の地形を生かして曲線的で美しい風景を再現しました。洪水の時以外は、本流の水の量は減らないので、生き物に影響を与えることもありません。
2011年春の完成までには、工事の計画や設計だけではなく、河川の模型で水の流れを実験したり、住民の理解を得るために説明会を開いたりと5年の歳月が費やされましたが、この土地ならではの川を再生することができたのです。今後、自然と人が共生するために、このような取り組みはますます求められることでしょう。
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