脳神経科学から読み解く、人の「意思決定」のメカニズムとは?
「人間らしさ」や「賢さ」とは?
自動運転や翻訳ソフトなど、ディープラーニングはさまざまな方面で活用され、私たちは気づかないうちにそのサービスに触れています。それらの元になるアルゴリズムの研究として、人間の「意思決定」の仕組みに着目して、脳神経科学の成果をもとに人間的な「賢さ」のメカニズムを再現する取り組みがあります。
例えば「将棋に勝つ」というのは、答えのわかっている問題へのアプローチです。しかし、人間は目的がはっきりとわかっていない状態で行動します。対人関係や自然についてのことは、いくら計算しても正確な答えが決まってはいません。そんなときに「適切なリスクをとる」ことが、知性の非常に重要な要素です。
アンカリング効果と脳の中のベイズ推定
1つの絵を「いくらで買いますか?」と尋ねると、値札のない状態と値札がある状態で人々の答えは大きく変わります。自分の価値観で判断していたものが、価格が示されると価値観が揺らぎ、答えはその近似値に集約されていくのです。これを「アンカリング効果」といいます。そこで、さまざまなアンカー(基準となる数値)を出した実験で定量的に測定し、これを機械学習で使われている「ベイズ推定」の枠組みでモデル化すると、きれいにデータとフィットすることがわかります。つまり、人は脳の中でベイズ推定という高度な確率の計算を行っている可能性が高いのです。
未来のより良い意思決定のために
これらの研究は、わかりやすいところではマーケティングへの応用が可能です。マーケティングを考えるのに使われる「ゲーム理論」は、人は合理的な行動をするという前提で作られていましたが、近年そうではないことがわかってきました。個々の人間にさまざまなバイアスがあることを視野に入れてシミュレーションすることで、社会のさまざまな複雑な意思決定に役立てられる可能性もあります。将来的には、政治や経済など人々が行うあらゆる交渉において、スムーズな意思決定の技術が確立できるでしょう。
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工学院大学 情報学部 システム数理学科 教授 竹川 高志 先生
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