「当たり前」と思っていることが、本当にそうなのか考えてみよう

「超人」思想に込められた意味
19世紀のドイツの哲学者ニーチェは、人間は「超人」というより強い存在に生まれ変わるべきだと主張しました。それでは、強い存在とは一体何なのでしょうか。言葉のイメージだけで捉えると「能力が優れた人」「権力を持つ人」などと考えがちです。しかしそうした捉え方は、ともすれば他者を凌駕し支配しようとする、自己中心的で暴力的な思考につながりかねません。ニーチェの文献を丁寧にひも解いていくと、彼はそのような強さを偏によしとしていたのではないことが分かります。ニーチェは、むしろ自分の力を抑制し、自己を批判して新しいものに生まれ変わることに、強さのもう一つのあり方を見出してもいるのです。
頭で理解できることがすべてじゃない
またニーチェは、もっぱら頭で考え、言葉で説明することで物事の真理を把握しようとする「理性」的な哲学を批判し、「身体」を介した物事の体験のなかに、思考の限界を超えて真理に到る優れた可能性を見出しました。例えば、靴ひもの結び方を言葉で説明するのは非常に難しいことです。それでも、多くの人がその方法を体得し、理屈抜きで難なく靴ひもを結びます。ニーチェが強調したのは「芸術」がもたらす身体的な陶酔体験ですが、この靴ひもの例からも「物事の本質を把握するには、頭で考える以外にも様々な方法がある」ということが分かるでしょう。
常識に縛られない哲学的思考
哲学を学び、実践することとは、当たり前と思っていることや、常識的なものの見方を根本から問い直し続けることに他なりません。そしてその結果、前述のように「自己の力を抑制することも強さだ」「私たちは頭で考える以外にも様々な仕方で世界を把握している」といったことに新たに気づいていきます。このようにして、常識や思い込みで凝り固まった狭い世界から脱し、広く多様な視点を持つことで、何か困難な問題に直面しても柔軟に対処できる解決能力を身につけることができます。ひいては私たちの生活ももっと自由で豊かなものになるでしょう。
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