熱帯のショウジョウバエが日本に分布拡大、遺伝子に変化はあるのか?
ゲノム・遺伝子から生物進化を探る「進化遺伝学」
人間は大昔から今の姿であったわけではなく、長い時間の中でだんだん変化してきました。生き物の個々の性質や形を決めているのは遺伝子で、すべての遺伝子を合わせて「ゲノム」と言います。
生物の進化を理解するには、さまざまなアプローチがありますが、遺伝子やゲノムがどのように変わってきたかによって、生物がどのように進化したかを遺伝的側面から解析する学問を「進化遺伝学」と呼びます。ゲノムは「生物の設計図」なので、その設計図の変化から生物の進化を明らかにするのです。
寒さに強いアカショウジョウバエ
ショウジョウバエは、普段の生活でよく目にする生物ですが、日本には形や大きさ、色、模様などさまざまな特徴によって300種近い種が記載されています。その中で、アカショウジョウバエはもともと東南アジアの熱帯に生息していた種ですが、1980年代中頃、関西で生息が確認され、今では名古屋市内でも普通に見ることができます。
日本は熱帯と比べて気温が低いので、アカショウジョウバエが生息できるようになった背景には、低温に強くなるための何らかの遺伝的変化があったものと考えられます。実際に熱帯地域と日本で採集したアカショウジョウバエの低温耐性を比べると、明らかに日本産の方が寒さに強いという結果が出ています。
遺伝子に何が起きているのか?
アカショウジョウバエは、1978年の調査では九州以北では全く見つかっていないので、わずか10年ほどの間に生息域を拡大したことになります。生物の進化は長い時間をかけてゆっくり変化していく、というのが一般的ですが、わずか数年のうちに変化が見られることもあるのです。
生物が突然、分布を一気に広げる現象はときどき見られ、例えば、日本でも発見され大きなニュースとなったヒアリも、アメリカではどんどん生息地域を北上させました。このような速いスピードで進化が起きる現象に注目し、進化の原因となっている遺伝子やゲノムの変化を突き止めるのも進化遺伝学の研究の一つです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 理学部 生命科学科 教授 田村 浩一郎 先生
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