セルロースファイバー/樹脂複合材料の社会実装に向けて
セルロース「ナノ」ファイバーとは
CO₂排出ゼロをめざすバイオエコノミー社会の実現に向けて、植物繊維を原料とするセルロースファイバー(CF)を樹脂と混ぜ合わせた「CF/樹脂複合材料」の研究開発が活発です。その一つが、セルロースをナノレベルにまで解繊した「セルロースナノファイバー(CNF)」を用いた複合材料の開発です。毛髪1本を約1万本に割いた細さのCNFは、軽くて強度が高く、熱で膨張しにくいといった特徴のほかに、繰り返し使えるという大きなメリットがあります。大量使用が期待される自動車や家電への展開をめざして、生活に身近な樹脂素材のポリプロピレン(PP)と、このCNFを複合させる技術の開発も進められています。
「ナノ」も大切だが
期待が寄せられる一方で、CNFには課題もあります。2024年時点でCNFの製造コストが1kgあたり約4万円と高額なのに加えて、ナノレベルの素材を使い、安定した材料にするのは技術的難易度が高いのです。2000年頃から日本主導で発展した技術ではあるものの、CNFはいまだに社会に浸透せず、さらに十数年以上の時間がかかるとみられています。その一方で、ナノレベルの精度を必要としない樹脂製品は、すでに数多くあります。そこで、まずはマイクロレベルの「CF」を使った製品を社会実装することで「早く」「多くの人に」CFの存在と良さを知ってもらい、脱炭素への関心を持ってもらいたいと考えられています。
ナノとスピードの両輪で
バイオエコノミー社会の実現は世界的な課題であり、特に欧州企業の戦略は明確です。欧州の自動車メーカーでは、CFにも満たないような精度の植物繊維を、外からは見えない部分に積極的に使用することで、自動車の材料のバイオマス比率を高める方向にかじを切っています。対して日本では、「ナノ」に特化した技術開発を進めつつ、スピード感のあるCFの社会実装を産官学の共創により展開することで、国際競争力の向上をめざしていると言えます。
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