講義No.06227 政治学

東日本大震災被災地への応援派遣からみる公務員の役割

東日本大震災被災地への応援派遣からみる公務員の役割

被災地へ公務員を派遣するってどういうこと?

2011年3月の東日本大震災では甚大な被害を受けました。自治体の行政機能も例外ではありませんでした。陸前高田市(りくぜんたかたし)や大槌町(おおつちちょう)のように庁舎を津波で失う自治体もありました。現在、多くの被災地では復興に向けた事業を進めています。復興過程での問題の一つに、行政職員の不足があります。では、職員不足に悩む被災地ではどうしているのでしょう。

公務員の被災地応援派遣における問題点

現在、行政サービスが滞りなく行えるように、日本各地の自治体から公務員の応援派遣が行われています。被災地応援派遣の状況は、例えば、中長期的な職員派遣制度での要望と充足状況を見てみると(2014年2月1日現在)、岩手、宮城、福島の各県内の48市町村が1448人名の応援要請をしています。一方で、充足数は1288人です。つまり、159人の不足が出ています。特に復興に直結する土木職や、被災者の心を癒す心理職などでの不足が目立ちます。しかし、これらの職種は日本各地の自治体でも人材不足で、被災地に派遣する余裕がないのが現状です。

公務員の果たす大切な機能

地方公務員は一度採用された自治体だけで終身勤務し続けるイメージがあります。そのため、被災地の公務員派遣は、本来の自治体での仕事とは異なる役割に見えます。しかし、そうでしょうか。地方公務員法には「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」とあります。
震災のような非常事態では、「全体のための奉仕」として自らの個別自治体での全体のためだけでなく、自治体全体のために、自治体間で職員を派遣し応援するという実践が生まれてきました。被災地への公務員派遣からは、一つの自治体だけではない、自治体全体への奉仕が求められる仕事である、という問いかけがあります。

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東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科 教授 松井 望 先生

東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科 教授 松井 望 先生

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行政学、地方自治論

メッセージ

「行政」というと自分には関係のないものだと思いがちです。しかし、水道から出る水も、歩く道も、公立高校の高校生ならば学校教育と、多くの行政活動は気がつけばあなたのそばに必ずあります。とはいえ、身の周りにありますが、見えにくい存在なのかもしれません。でも、見えにくいからといってすべてを行政に委ねてよいのでしょうか。もしも気になったところがあれば、パブリックコメントで意見を出したり、住民集会に参加したりと自分から働きかけてみてはどうでしょうか。もしかするとあなたのひと言で行政が変わるかもしれません。

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