人工心臓・生活支援機器の開発と日本の医療機器技術への高まる期待
心臓の働きを補助する人工心臓
重度の心臓病の治療法として、近年、心臓移植手術を希望する患者さんが増えてきましたが、ドナーの人数が限られるため、移植を希望しても、すぐ受けられるわけではありません。そこで、移植までのつなぎとして、人工心臓を使うケースが増えています。人工心臓は、ポンプに動力となるモーターがついたもので、これを機能が低下した心臓に付け、血液を送り出す役割をさせることで、血液を正常に体内に循環させることができるのです。人工心臓の用途は、移植までのつなぎのほか、自身の心臓の機能が回復するまでの補助や半永久的に利用される場合もあります。
電磁誘導を使い無線で充電
人工心臓は体内に埋め込むため、生体に負荷がかからないことが、最も大切な要件になります。そのため、開発においては、材料の生体に対する影響の有無を細胞レベルで試験をして、安全性を確認します。さらに、人工心臓は、一旦埋め込んでしまうと、簡単には取り出すことができないため、ポンプの動力となるモーターが止まることなく回り続けるよう、無線で充電できるようになっています。これは、「電磁誘導」という技術を使い、電気を磁石の力に変え、皮膚を介して体内のモーターを充電する仕組みです。ちなみに、この技術は、交通機関などで利用される接触式のICカードの情報を書き換える用途にも使われています。
許認可の高いハードルを越えて
日本は、人工心臓をはじめ、医療機器の開発に関して、非常に高い技術を持っています。しかし、実用化に際しての許認可のハードルが極めて高いため、国内ではなかなか治験(臨床実験により効果を確認すること)ができないのが現状です。しかし、高齢化の進展により、身体の不自由を訴える人は増えることが予想され、人工心臓をはじめとする医療や生活支援・福祉機器へのニーズも高まることが見込まれます。安全で、性能のよい、高機能の機器の開発はそうした多くの人々のニーズに応えるためにとても重要になってくるでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
東京都市大学 理工学部 医用工学科 教授 和多田 雅哉 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
医用工学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?