グローバルとローカルの視点から考えるアンコール遺跡
古代寺院の文化遺産化
カンボジアのアンコール遺跡は、9世紀から13世紀頃にかけて、アンコール王朝によって建てられた宗教建築群です。東京23区と同程度の範囲の中に、最も有名なアンコール・ワットをはじめ石造寺院が、無数に点在しています。いまから100年ほど前、フランス植民地期に文化遺産として見いだされ、歴史学の研究と同時に修復活動が開始されました。しかし1970年に勃発したカンボジア内戦を経て約20年間、アンコール遺跡は荒れ果て、さらに遺跡の調査や修復に従事していたカンボジア人専門家の多くが命を落としました。
「危機にさらされている世界遺産」に登録
内戦終結後、カンボジアにアンコール遺跡を自力で修復する力は残されていませんでした。1992年、ユネスコはアンコール遺跡を世界文化遺産の中でも「危機にさらされている遺産」のリストに登録します。それを契機に、アンコール遺跡は国際的な協力体制の下で、各国サポートによる修復や調査が進められるようになりました。やがてカンボジアの治安が安定すると、大勢の外国人観光客が訪れるようになり、それにともなう形でカンボジアの観光産業は一気に発展します。かつては穏やかな農村であった遺跡周辺の地域に、急激な環境の変化が及んだのです。
グローバルとローカルの橋渡しの取り組み
アンコール遺跡は、内戦終結後のカンボジアにおける国家復興の象徴としてだけでなく、グローバルな世界文化遺産としての価値が強調され続けてきました。その一方で、遺跡周辺に暮らすローカルな人々の生活環境の急激な変化が引き起こしたさまざまな問題や、人々自身の抱える思いについては、取りこぼされてきたという現実もあります。地元の人々がより平穏な形で遺跡と共存できる環境を整えたり、遺跡の研究成果を彼らの郷土史の材料として提供したりするなど、グローバルとローカルの橋渡しを意識した取り組みが必要になっていくでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。