知的財産権の保護は世界にとって望ましいのか

知的財産権の保護は世界にとって望ましいのか

特許権が増え続けるIT分野

IT分野の製品は、小型化が日進月歩で進んでいます。それにともない特許の数も飛躍的に増えており、小さなスマートフォンの端末1台に5千から1万もの特許権が存在することもあります。情報技術に関しては、大企業はもとより中小のベンチャー企業、学生個人でも特許を取得することが珍しくないからです。

人命尊重か、特許権の保護か

一方、開発に膨大な費用と時間がかかり、特許を取る以前に巨額の資本が必要な医薬品分野では、特許権が国同士の経済格差が絡んで問題になることがあります。それは、先進国の製薬会社が薬品の開発資金を回収するために特許のライセンス料を高く設定し、発展途上国にとって薬がひどく高価になってしまうというものです。
例えば、アメリカの複数の製薬会社が自社開発のエイズ治療薬を巡り、安価な複製品の輸入・製造を認める南アフリカ政府を訴えたことがありました。この訴訟は、国際世論の批判や人命尊重の観点からほどなく訴えが取り下げられ、最終的には発展途上国に対するエイズ薬の供給に便宜が図られることになりました。薬を開発した製薬企業の特許権は認められるべきですが、経済格差があるにもかかわらず、国際協定ではどの国にも一律の保護が求められてしまうのは問題でしょう。

知的財産権を守ると国家が栄える?

特許権や著作権、商標権など、人間が創った無体物(形のないもの)に対しての権利を知的財産権と言います。かつて「知的財産権の保護の強化が国家の繁栄を招く」と謳われたこともありましたが、持続的な発展のためには必ずしも権利を主張するばかりが望ましいものではないことが明らかになっています。これは法学からの観点だけではなく、経済学の実証研究でわかったことです。知的財産権のように複雑な要素が絡み合う問題では、経済学や政治学の知見も含めてグローバルに社会全体の仕組みを考え、解決を図ることが重要になります。

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東京大学 法学部  教授 田村 善之 先生

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知的財産法

メッセージ

法律とは、紛争や問題が起こった際、その都度さまざまな考え方を反映させ、少しずつ改良を重ねながらつくられてきた解決策です。あなたが将来法律に携わらなくても、社会の中でルールや組織をつくるとき、あるいは人をまとめようとするときに、必ず法学の知識は役立ちます。法学は、膨大な条文をただ記憶するだけではありません。その条文をどのように社会に適合させていくのか、これを考えることに面白さがあります。問題を発見・解決し、それを制度化する思考のトレーニングを行いましょう。

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