講義No.06518 日本文学

和歌を知らないと恋人に会えなかった!? 恋歌の作法と時代的変化

和歌を知らないと恋人に会えなかった!? 恋歌の作法と時代的変化

和歌は恋に欠かせない

日本の古典文学でとても大きな位置を占めているのが恋です。藤原定家の父俊成は、「人間は恋によって初めて人の心(もののあはれ)を知ることができる」と言っています。「もののあはれ」には人を信じる心や、いたわりも含まれますが、それが恋をすることで芽生えていくという考えです。恋心はすべての心の原点だと考えられていたのです。
昔の日本では恋をするには和歌が詠めなければなりませんでした。どんなイケメンでも、和歌が下手だったら女性に会うことすらできなかったのです。百人一首も、100首中43首が恋歌です。

和歌を理解する鍵

和歌には「掛詞(かけことば)」や「序詞(じょことば)」という技法があります。この根本にあるのは「心物対応構造」というものです。例えば掛詞は同音異義語ですが、必ず心と物がペアになっています。「まつ」は恋しい人を待つ気持ちと樹齢の長い樹木の松が対応しています。松は人を待っているわけではありませんが、昔の人は、松ががまん強く待ち続ける心のシンボルだと考えました。心は見えないので、イメージとして共有している具体物で恋心を伝えたのです。この構造は万葉集の時代からありますが、時代とともに形が変わり、鎌倉時代にはかなり巧妙になりました。

「語らない」日本文化のルーツ

平安時代末期から戦乱の時代に入り、死後の世界への関心が深まりました。そして文化や芸術は、リアリティーが消えていき、直接気持ちを表現するのではなく、象徴を用いたり、隠したりすることが美しいとされるようになりました。例えば藤原定家の「見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕ぐれ」という和歌は、文字通りの意味だけでは「それで何?」と言いたくなるものですが、かえって想像が膨らみます。これはお能や茶道、絵画にも表れている特徴です。
日本には喜怒哀楽の心理がわかりにくいとか、以心伝心という「語らない」文化がありますが、そのルーツは中世にあります。和歌の技法もそのように変化していったのです。

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フェリス女学院大学 文学部 日本語日本文学科 教授 谷 知子 先生

フェリス女学院大学 文学部 日本語日本文学科 教授 谷 知子 先生

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中世日本文学、和歌文学

メッセージ

「和歌は難しい」といわれますが、ほんの少し本質を理解すれば不思議なくらいするすると理解できます。和歌は日本独自のジャンルであり、お茶などの芸道から政治制度まで、日本文化すべての土台になっています。
『百人一首』は、『ちはやふる』や『うた恋い。』でおなじみかもしれませんが、古代から鎌倉時代の和歌の百の美しい形ででき上がっています。43首が恋歌で、それぞれの個性や生きた時代にふさわしい輝きを放っています。歴史とともに恋歌のレトリックと心を深く理解してほしいと願っています。

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