松尾芭蕉の『おくのほそ道』は、どういう装丁だったのか?

松尾芭蕉の『おくのほそ道』は、どういう装丁だったのか?

「書誌学」ってどんなことを学ぶの?

江戸時代の作品を読む際には、古書(和本)など実際の資料に当たることが多いのですが、そのためには「書誌学」の素養が必要になります。「書誌学」とは、書物を扱う学問分野で、その素材や体裁、書写や出版、本文や挿絵などを研究します。
江戸時代の本も、その体裁はさまざまです。例えば、テレビの時代劇などで忍者が巻物を持つ姿が描かれることがあります。あれは巻子本(かんすぼん)と呼ばれる書物の形態で、奥義(おうぎ)や秘伝など、ある種の権威を備えた本であることを示す形態なのです。江戸時代には袋綴(ふくろとじ)と呼ばれる装丁が一般的でしたが、当時の人たちは本の内容に応じて、どういう装丁がふさわしいのか工夫していたことがわかります。

和本の装丁には、どんな種類があるの?

大きく分けると、巻子本、折本(おりほん)、旋風葉(せんぷうよう)、粘葉装(でっちょうそう)、列帖装(れっちょうそう)、袋綴、に分類されます。また、本の大きさ(書型)には、大本(おおほん)、半紙本(はんしぼん)、中本(ちゅうほん)、小本(こほん)、横本(よこほん)、枡型本(ますがたぼん)、などがあります。

『おくのほそ道』は、どんな装丁だったのか?

松尾芭蕉の『おくのほそ道』は、芭蕉没後に残された清書本に拠り、弟子たちによって出版されました。その書型は枡形本ですが、じつは、これは中世以前の歌書や物語によく用いられた書型です。なぜ、わざわざ古い時代の書型が選ばれたのでしょうか?
『おくのほそ道』は、かつての歌人たちの歌枕をたどる内容を含んでいます。とすれば、芭蕉が枡型本を選んだのは、自分の作品は中世以前の文学伝統を引き継いだものだ、という自負のあらわれだと考えることができます。当然、弟子たちも芭蕉のこのこだわりを知っており、あえて芭蕉が残した清書本の姿のままで出版したのです。本の装丁へのこだわりを知ると、作品の見方もまた違ってきます。

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立正大学 文学部 文学科 日本語日本文学専攻コース 教授 伊藤 善隆 先生

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近世文学、書誌学

メッセージ

最近は「キャリア教育」の重要性が語られます。しかし、人の興味関心は、さまざまな出会いで思いがけない方向に展開します。ですから、高校生の段階で、「絶対にコレ!」とか、「早く目標を決めなければならない」と思い込み過ぎると、結果的に自分の可能性を狭めてしまう場合もあります。今は、さまざまなことに関心を持ち、高校生として必要な素養をまず身につけてほしいと思います。後になって新しい夢が具体的にできた時に、「学生時代、真面目に○○を勉強してなかったから……」と諦めるなんて、もったいないですから。

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