生態系の季節的活動を遺伝子から予測する!
100種以上の花が、一斉に咲く不思議
東南アジアの熱帯雨林では、数年に一度、100種以上の植物の開花時期が同調するという「一斉開花現象」が発生します。植物の開花には、「低温」や「乾燥」という経験が重要であることは知られていましたが、なぜ一斉開花するのかは、わかっていませんでした。しかし近年の研究により、低温や乾燥をきっかけとして発現する開花遺伝子が特定されました。それにより、植物の開花時期や遺伝子のデータを、数理モデルという、データをシンプルな数値として扱う手法を用いて解析することで、一斉開花が起こる時期の予測もできるようになりました。
実をつけるのを遅らせる戦略
日本の森でも、不思議な現象があります。どんぐりの実をつけるブナ科の木には多くの種類がありますが、花が咲いた年に実がなる種と、花が咲いた翌年に実がなる種があります。繁殖に関わる遺伝子の発現を長年にわたってモニタリングし、データを解析することで、翌年に実がなる木の共通性が見つかりました。研究の結果、実がなる時期を遅延させて繁殖に適さない厳しい冬の時期を乗り越えるという生存戦略であることがわかってきたのです。
数理モデルで生態系の未来を予測
このように、数理モデルやデータ解析によって生命現象を解明しようとする学問を「数理生物学」と呼びます。開花時期の予測などが進めば、地球温暖化が進行した場合に、熱帯雨林の開花時期がどのように変化し、100年後の生態系がどうなっているかを予測することも可能になります。地球温暖化によって、温帯地域では、植物の開花の早期化が進むと同時に、昆虫の発生や渡り鳥の飛来時期なども早期化していることがわかっています。生物は相互に作用しながら生きているので、そのタイミングにずれが生じると、昆虫による花の受粉がうまくいかなくなるなど、生態系に大きな影響が出てきます。将来何が起こるのかを正しく予測することで、今、何をしなければならないのかということが、より明確にわかるようになるのです。
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九州大学 理学部 生物学科 教授 佐竹 暁子 先生
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