勝ち組になる秘訣は森に聞け
木の競争
森に生える木々は、ほかの木との間で、生き延び、どの木よりも大きくなろうとする競争を繰り広げています。ひとつの森を何十年と観察し続けることで、その競争の様子を垣間見ることができます。
研究地の1つではシイの木が森を形成しており、最初に観察した時点で、すでに大きく成長した「勝ち組」と、小さな「負け組」に分かれていました。観察が始まってから20年がたつと、勝ち組の木はますます成長して、負け組の木の多くは枯れてしまいました。勝ち組の木が樹冠を大きくして葉を茂らせたことで、負け組の木に光が当たりにくくなったのが大きな要因です。勝ち負けの格差が拡大してしまったのです。
勝ち組に入れ替わるチャンス
しかし、20年を過ぎたころに大きな台風が通過して、森に甚大な害を及ぼしました。大きく成長していた木ほど風の影響を受けて、多くの勝ち組の木がなぎ倒されてしまいました。さらに台風当日を耐え抜いた木でも、その時のダメージにより、その後の10年で徐々に衰えて枯れていくものもありました。こうして、台風を機に木々の代替わりが起きたのです。ここで新たな勝ち組に進んだのは、勝ち組の下で耐えていた中間層の木でした。つまり、最上層が入れ替わるチャンスが巡ってきた時に、その下の中間層までたどり着いている木々が、その地位を勝ち取れるのです。
森の観察の重要性
このような、生態系をガラッと変える大きなイベントを「かく乱」と呼びます。この森ではその台風でかく乱が起きて以来、大きなイベントがないため、そこで勝ち組となった木々が現在も繫栄し続けています。しかし、気候変動により日本を通過する台風の数が増えて、その規模が大きくなってきているので、森の更新サイクルが変わる可能性もあります。
人間の時間間隔からすると静かで動きのないように見える森は、10~20年という長い時間サイクルの中で大きく変化しているのです。気候変動により、今後日本の森が大きく姿を変える可能性もあります。それを見極めるためには継続した森の観察が重要なのです。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 総合科学部 国際共創学科 教授 山田 俊弘 先生
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