子育てに必要な、「養護性」って何?
「母性本能」なんてない!
「子どもが3歳になるまでは、母親が手元で育てないと悪い影響がある」、これは、いわゆる「3歳児神話」「母性愛神話」と言われるものです。しかし、子どもを産んですぐに親らしく養育できるわけではありません。つまり、母性本能という本能などはなく、子どもと関わりながら徐々に親らしくなっていくのです。平成10年度版『厚生白書』でも、これらの神話に科学的な根拠はないと断言しています。
研究結果が曲解されて生まれた「母性愛」
これらの神話は、ある誤解から世の中に広まりました。第二次世界大戦後、施設に収容された戦災孤児の心身の発育の不利を解決するために、WHO(世界保健機関)が、イギリスの医師・精神分析学者のボウルビィに研究を委託したのです。すると子どもの発達には、養育者による「アタッチメント(愛着)」が必要だとわかりました。アタッチメントとは、安心感を得るために、特定の個体に対して持つ強い心の結びつきのことです。ところが日本では、「養育者」の部分を「母親」と限定して、「三つ子の魂百まで」という諺と一緒になって広く受け取られてしまったのです。子どもの成長には、親や親戚、施設職員などの特定の養育者との関わりが大切ですが、それは必ずしも母親とは限定されないのです。
母性や父性に代わる、養護性とは
母性や父性という言葉自体も、性や年齢の限定があるものなので、「養護性」という言葉に置き換えられるようになってきています。養護性は、老若男女を問わず、「弱いものを慈しみ育む、やさしい心の働き」のことで、花や動物をかわいがる子どもにも養護性を認めることができます。ある調査では、教育・医療・福祉系の学部の学生は、他学部の学生に比べて養護性が高いことがわかりました。また、経済などの社会科学系の女子学生よりも、理系の男子学生の中に高い養護性を持つ人がいるという結果も出ています。
養護性に着目し、親になるプロセスを解明することで、子育て支援に役立つような知見が得られることが期待されているのです。
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