なぜ、インフルエンザウイルスは人に感染するようになったのか
元来インフルエンザウイルスは人に感染しなかった
ウイルスには、ある種の動物にしか感染しないものと、インフルエンザウイルスのように人やニワトリを含むさまざまな動物に感染するものがあります。どこに違いがあるのでしょう?
インフルエンザウイルスは口から体内に入ると、まず喉の細胞に吸着します。細胞表面にはレセプター(受容体)と呼ばれる器官があり、まずそこにウイルスが結合します。ところが、この器官には鍵と鍵穴のような仕組みがあり、形が合わないと結合できません。インフルエンザウイルスの場合は、人とニワトリの両方のレセプターに結合できるウイルスが存在しているわけです。
突然変異で人に最適化されたウイルスが誕生
しかし、インフルエンザウイルスは最初から人に感染するウイルスではありませんでした。起源はカモの腸内ウイルスで、そのウイルスが突然変異でニワトリに感染できるウイルスに変異し、さらに人にも感染するようになりました。感染する動物の近い場所に別の動物がいると、ウイルスと接触する機会が増えます。そして突然変異が起こり、感染できるウイルスが誕生します。人の体内で最も効率よく増殖できるウイルス、すなわち人に最適化されたウイルスがこのようにして生まれるのです。
将来インフルエンザウイルスは無害になるかも?
インフルエンザウイルスが人に感染するとウイルスの遺伝子が人の細胞内に注入され、その細胞で次々と子孫ウイルスが増殖します。一方でその細胞も破壊されていきます。その結果、インフルエンザの症状である咳、熱、体や喉の痛みなどが表れます。ただし、細胞が破壊されるとウイルスも増殖できなくなるので、ウイルスにとってはよいことではありません。実は、人やニワトリにとっては有害なインフルエンザウイルスも、カモにとっては無害な場合があります。これはカモとインフルエンザウイルスが「共生」しているためです。これがウイルスにとって理想の型です。今は有害なウイルスが、遠い将来、無害なウイルスに変異し、人と共生する可能性もあるのです。
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鳥取大学 農学部 共同獣医学科 教授 伊藤 壽啓 先生
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