農作物に被害をもたらす病原菌を、化学でコントロールする!
農作物の病原菌が毒素を出す仕組み
人間と同じように、農作物も病原菌によって病気になります。とはいえ、病原菌が表面に付着しただけでは、被害はありません。病気の原因は、病原菌の作り出す毒素にあるのです。そして、それらの毒素は、例えば、病原菌が自分の周囲にたくさんの仲間がいることを認識した時など、特定の条件が満たされた場合に作り出されます。ですから、病原菌が毒素を出す前に、それを止めることができれば、農作物を病気から守れるのです。例えば、殺菌剤で病原菌自体を殺すというのも選択肢のひとつです。しかし、その方法では、薬剤の効かない耐性菌を誕生させてしまうおそれがあります。
分子で病原菌をだます?
病原菌を殺す以外の選択肢としては、彼らに毒素を作らせないよう「コントロールする」という方法があります。そこで活躍するのが、さまざまな分子です。ある種の病原菌は、自分の細胞内から分泌した特定の物質を使って仲間とやり取りします。そして、そのやり取りの頻度が増えると、自分の周りに仲間が十分にいると認識して毒素を作り始めます。
それならば、病原菌が仲間とやり取りに使っている物質を分析し、その分子構造を明らかにすれば、彼らの行動をコントロールできるようになります。例えば、分子を組み合わせて、その物質を阻害する有機化合物を作り、それを利用して彼らに「自分の周囲に仲間はいない」などの間違った認識を与えれば、毒素を作らせないように誘導することができるのです。
病原菌とのすみ分けができる?
病原菌の行動をコントロールできるような物質を作ることができれば、これまで病原菌として扱われてきた微生物を人間の都合で殺すことなく、無害化することができます。しかし、そうした物質がいくら効果的であっても、実際に農薬として使うには、生産量や生産コストの問題をクリアしなければなりません。つまり、農薬として実用化するためには、大量に、しかも安く作る化学技術も開発することが必要なのです。
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東京農業大学 生命科学部 分子生命化学科 教授 矢島 新 先生
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