17世紀の詩人ミルトンが、現代に与えたかもしれない影響とは?

17世紀の詩人ミルトンが、現代に与えたかもしれない影響とは?

詩人・神学者のジョン・ミルトン

私たちは誰かと言葉のやりとりをするときに、相手との関係性や過去の会話なども加味しながら、相手の真意や意図をくみ取ろうとします。これは、文学の研究にも通じるものがあります。例えば17世紀英国の詩人であり、神学者でもあったジョン・ミルトンは「敬虔(けいけん)なピューリタン」と言われることが多かったのですが、彼が残した作品や書簡などを注意深く読んでいくと、当時のキリスト教教義の主流からすれば異端的要素が見えてきます。

イヴの描かれ方

例えば、聖書の創世記に、アダム(男)は神から直接つくられたがイヴ(女)はそうではないとあることから女性蔑視の考え方が正当化され、それは17世紀の英国でも続いていました。その時代を代表する詩人ミルトンは、アダムとイヴの誕生から楽園追放までを描く長編叙事詩『失楽園』を、聖書の物語に従って執筆しました。後にフェミニズム運動が盛んになり、彼の作品は女性蔑視の視点で書かれているとして槍玉にあげられました。確かにミルトンの作品には17世紀英国での女性観が反映されています。でもそれは、あなたが、時代や国、周りの人々などから影響を受けて今の価値観を持つようなったのと同じです。むしろ特筆すべきは、ミルトンの描くイヴは、作中の様々な箇所で、現代のジェンダー論に非常に近い視点で描かれていることなのです。このことは近年、作品がより中立的に、そして詳細に読まれることでわかってきたのです。

過去に目を向ける

ミルトンの時代に比べると、現代はテクノロジーが飛躍的に発達しました。一方、今も数百年前と変わらずに戦争や、人間間の差異が引き起こす問題が後を絶えません。こうした争いに見切りをつけて人類が次の段階に進むためには、新しいことだけではなく、残されている書物や記録を通して過去から学び、そしてよりよい社会を気づいていくことが重要です。ミルトンが残した書物を丹念に追うことで、過去があるから今があるという当然のことを再認識することもその一つとなるでしょう。

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京都先端科学大学 全学共通教育機構  教授 江藤 あさじ 先生

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メッセージ

世の中で正解であると思われていたことが、実は違っていたということは多々あります。周囲との関係性も含めて、こうした先入観に流されずに「実はこうなのでは?」「別の可能性もあるのでは?」と考え続けてほしいです。特に大学生になれば、今よりも自由に使える時間が増えます。何事も早急に答えを出して自分を安心させるのではなく、時間が許す限り考えることを止めないでほしい、というのが私からのメッセージです。

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本学は世界で活躍する「人財」を育てる5学部10学科の総合大学です。経済経営学部、人文学部、バイオ環境学部、健康医療学部、工学部、それぞれの学部でグローバル化する現代社会を生き抜く「未来を生み出すチカラ」を身につける教育を展開。専門性に加えて、多くの留学生が学ぶ「国際性が日常のキャンパス」で実践的な英語力を磨くとともに、多様性に適応するコミュニケーション能力、デジタル化に対処できるデジタルリテラシーを高めて、激動する社会に向かって自らを築き、世界レベルで活躍できる人材の輩出を目指しています。