政治思想史から考える、主権国家のゆくえ
価値対立の克服に必要なもの
主権国家はなぜ存在し続けているのでしょうか? 16~17世紀のヨーロッパでは、信仰をめぐる妥協不可能な価値対立が激化し、暴力を伴った迫害と抵抗が繰り返されました。その混乱状況において、抵抗勢力の力を削いで政治権力を集中させ、国外からの介入を阻止することによって、共存可能な秩序を生み出そうとしたのが主権国家の考え方です。主権が誰にあるのかは時代によって変化してきましたが、絶対権力が平和を保障するという考え方は、いまも変わることなく存在しています。
しかし、この枠組みが大きく揺らぎ始めています。これまで押さえ込まれてきた民族や地域が自立を求め、グローバル化によって資源・資金・情報が横断し、多様な価値観が生み出されつつある現在、主権の境界線はむしろ自由の足枷になり、共存を損なわせる原因にすらなりつつあるのです。
もう一つの主権論
政治思想史を紐解いていくと、トップダウン型ではなく、真逆のボトムアップ型の主権論に出会います。同時代のドイツの思想家・アルトジウスは、抵抗勢力の基盤とされた仲間団体・都市・州などの自由と自治を認め、小さな自治を保障する主権国家を構想していました。この分権的・重層的な秩序構想は、時代のうねりにかき消されましたが、いまその考え方が注目されています。より小さな単位の自主性・自立性を尊重し、それで不可能な場合は、より大きな単位が補完すると考える「補完性原理」は、欧州統合や地方分権改革など、国家を超える諸問題の解決や地方の自立をめざす場面で活かされています。
新たな政治秩序を構想する
強固な境界線を超えて、共同体・組織・分野・世代が多様に交わり、国家統治から市民自治へ、中央から地域へ、垂直から水平へと比重がシフトしていくところには、どのような政治秩序が構想できるでしょうか。自由が尊重され、様々な力が多角的に活かされる社会。政治思想史に見出される古典は、考えるヒントを発見できる宝庫であり、様々な解釈を通じて、その可能性が探求されています。
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先生情報 / 大学情報
千葉大学 法政経学部 法政経学科 教授 関谷 昇 先生
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