数学で風を読むには 方向統計学の世界
(1+359)÷2の答えは?
例えば数学のテストの点数が、Aさんは60点でBさんは70点だとすると、二人の平均点は(60+70)÷2で65点となります。一方で、風向きを示すようなデータにおいて、真北の方向を0度とするとき、真北から1度ずれた方向と359度ずれた方向の平均はどうなるでしょうか? 感覚的には0度ですが、単純に数値の平均を求めると180度となり、逆方向になってしまいます。つまり、角度は平均の意味を持たないデータなのです。このようなデータを、どうすれば正しく統計処理できるかを研究するのが「方向統計学」です。
数字をとらえ直してみると
方向統計学では、0度と360度のように同じ方向を意味する角度を「360度の周期を持つデータ」ととらえます。また、そもそも角度ではなく「方向を表すベクトル」ととらえる研究者もいます。 方向が与えられるベクトルだと考えれば、0度から見て1度のベクトルと359度のベクトルの平均は0度になるからです。 方向統計学では、このような周期性や方向を持つデータに対する研究が進められています。
風がいつ、どの方向から吹くのか
群馬県では冬になると、赤城山の方向から「赤城おろし」と呼ばれる冷たい北風が吹きます。この赤城おろしや台風のように、ある地域において季節や時間帯で吹く風の傾向が、「いつ」変わるのかを推定することに方向統計学が用いられます。それぞれの時刻において、風向きや風速が変化する確率モデルを作り、そのモデルに基づいて推定します。このモデルは「隠れマルコフモデル」といい、自然言語処理でよく使われています。 風がいつ、どの方向から吹くのかが統計学的に示されることで、動物や人間に与える影響も評価できると期待されています。具体的には、風の影響を受けやすい渡り鳥の飛行や、アーチェリー競技でのパフォーマンスです。 現時点では、経済分野への応用はほとんどなされていませんが、逆にいえば、経済学において新しい知見が得られる可能性がある研究分野だといえるでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。