「海馬」は記憶の必殺仕分け人? ~脳科学で記憶の仕組みを解明~
人の脳は優秀な情報処理マシーン?
人間の脳はとても複雑で、現代医学や科学でもまだ解明できていないことが数多くあります。そんな脳の研究を行う脳科学分野の中でも、脳を情報処理機械に見立て、その機能を調べる研究分野を「計算論的神経科学」と言います。
脳の大切な機能の1つに「記憶」があります。計算論的神経科学では、脳のデータを解析して神経回路がどのように物事を記憶しているのかを分析しています。記憶を時間的に分類すると、長期記憶と短期記憶に分けられます。短期記憶は、電話番号を見て覚えておいて、すぐ電話をかけるような場合です。長期記憶は文字通り、年単位で長期間覚えている記憶です。
記憶を仕分けする司令塔「海馬」
長期記憶にはさらに、昨日の食事メニューなど特定の体験を通して覚えている「エピソード記憶」と、いわゆる暗記のように知識にひもづく「意味記憶」があります。エピソード記憶と深い関わりがあるのが「海馬(かいば)」と呼ばれる脳の一部分です。海馬は神経細胞の結合をつくる役割を果たしていると言われ、短期記憶から長期記憶へと情報をつなげる中期記憶を担う器官です。日常的な出来事や学習して覚えたことは、いったんこの海馬にファイリングされ整理整頓してから、大脳皮質という部分へ保存されていきます。つまり記憶を仕分ける司令塔なのです。
記憶を失うのは海馬が弱るから?
ところがこの海馬はとてもデリケートで壊れやすく、脳がダメージを受けると真っ先に働かなくなります。「酔っ払って前日の記憶がなくなる」と聞いたことがあると思いますが、あれはアルコールによって海馬の働きが鈍っているからです。
海馬の神経回路をAI技術を使ってシミュレーションや解析をし、再現する研究も行われています。海馬はおよそ2年分の記憶をプールしていると言われます。短期記憶から長期記憶への神経回路の働きや仕組みがわかれば、より効率的な学習方法や記憶訓練、頭を使う訓練に役立つことでしょう。
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公立はこだて未来大学 システム情報科学部 複雑系知能学科 教授 佐藤 直行 先生
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