遺伝子は同じなのに、なぜヒトの脳はネズミの脳と違うのか
遺伝子は同じなのに
哺乳類の実験は、ネズミを中心に行われてきました。薬の開発でも、まずネズミで実験が行われます。ネズミとヒトの脳は、異なるところも数多くありますが、遺伝子のはたらきは共通なのです。では、共通なのにもかかわらず、脳のかたちやはたらきに違いがあるのはなぜでしょうか? 鍵を握るものの1つが「ノンコーディングRNA」です。
タンパク質にならないRNA
「ノンコーディングRNA」とは「タンパク質に置き換わらないRNA」という意味です。すべての遺伝子はRNAに置き換わることで機能しますが、RNAにはタンパク質に置き換わるものと、置き換わらないものがあります。
一方、同じ遺伝子配列(ゲノム)が、同じ細胞になるとは限らないのは、使う遺伝子と使わない遺伝子を決める仕組みがあるからです。この仕組みによる情報を「エピゲノム」といいますが、「ノンコーディングRNA」はエピゲノムに深く関わっています。つまり、ネズミとヒトの「ノンコーディングRNA」の違いが、遺伝子が同じでも、両者の脳が異なる理由の1つと考えられるのです。
データ解析と実験と
どの「ノンコーディングRNA」が、どんな違いにつながっているのかを突き止めるために、まずネズミとヒトの「ノンコーディングRNA」をすべてデータベース化し、ヒトにはあってネズミにはないものを解析します。次に、ヒトにだけある「ノンコーディングRNA」をネズミの脳に移植して、どんな変化が起こるのかをすべてデータ化します。このように、RNAの情報の解析と、ネズミへの実験を融合させ積み重ねていくことで、ヒトの脳のメカニズムが解明されていくのです。
この研究が進めば、ネズミの脳を「ヒト的な脳」に変化させることや、「ヒト的な脳」を培養器の中で作り出すことも、夢ではありません。もし、「ヒト的な脳」を作ることができたら、創薬の実験を今より低コストでスピーディに行うことができます。また、脳の解明によって、薬の開発そのものにつながることも期待されています。
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広島大学 理学部 生物科学科 教授 今村 拓也 先生
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