講義No.11418 生物学

遺伝子は同じなのに、なぜヒトの脳はネズミの脳と違うのか

遺伝子は同じなのに、なぜヒトの脳はネズミの脳と違うのか

遺伝子は同じなのに

哺乳類の実験は、ネズミを中心に行われてきました。薬の開発でも、まずネズミで実験が行われます。ネズミとヒトの脳は、異なるところも数多くありますが、遺伝子のはたらきは共通なのです。では、共通なのにもかかわらず、脳のかたちやはたらきに違いがあるのはなぜでしょうか? 鍵を握るものの1つが「ノンコーディングRNA」です。

タンパク質にならないRNA

「ノンコーディングRNA」とは「タンパク質に置き換わらないRNA」という意味です。すべての遺伝子はRNAに置き換わることで機能しますが、RNAにはタンパク質に置き換わるものと、置き換わらないものがあります。
一方、同じ遺伝子配列(ゲノム)が、同じ細胞になるとは限らないのは、使う遺伝子と使わない遺伝子を決める仕組みがあるからです。この仕組みによる情報を「エピゲノム」といいますが、「ノンコーディングRNA」はエピゲノムに深く関わっています。つまり、ネズミとヒトの「ノンコーディングRNA」の違いが、遺伝子が同じでも、両者の脳が異なる理由の1つと考えられるのです。

データ解析と実験と

どの「ノンコーディングRNA」が、どんな違いにつながっているのかを突き止めるために、まずネズミとヒトの「ノンコーディングRNA」をすべてデータベース化し、ヒトにはあってネズミにはないものを解析します。次に、ヒトにだけある「ノンコーディングRNA」をネズミの脳に移植して、どんな変化が起こるのかをすべてデータ化します。このように、RNAの情報の解析と、ネズミへの実験を融合させ積み重ねていくことで、ヒトの脳のメカニズムが解明されていくのです。
この研究が進めば、ネズミの脳を「ヒト的な脳」に変化させることや、「ヒト的な脳」を培養器の中で作り出すことも、夢ではありません。もし、「ヒト的な脳」を作ることができたら、創薬の実験を今より低コストでスピーディに行うことができます。また、脳の解明によって、薬の開発そのものにつながることも期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

広島大学 理学部 生物科学科 教授 今村 拓也 先生

広島大学 理学部 生物科学科 教授 今村 拓也 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

分子生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

大学を選ぶとき、将来をどこまで視野に入れるのかは、それぞれの考え方があると思います。卒業したあとのため、つまり就きたい職業に合わせて大学を選ぶこともあるでしょう。一方、将来の職業はイメージできないけれど、「研究してみたいことがある」、「この学問がおもしろそう」と思うこともあるでしょう。こんな漠然とした研究への興味や憧れを、大切にしてほしいです。
研究とは、間口が広く、おもしろく、楽しめるものです。研究するために大学に行くという選択肢があることを、忘れないでください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

広島大学に関心を持ったあなたは

広島大学は社会に貢献できる優れた人材を育成し、科学の進歩・発展に貢献しつつ、世界の教育・研究拠点を目指す大学です。緑豊かな252ヘクタールという広大な東広島キャンパスを抱え、また、国際平和文化都市である広島市内等のキャンパスを含め、12学部、4研究科、1研究所、大学病院並びに11もの附属学校園を有しています。 新しい知を創造しつつ、豊かな人間性を培い、絶えざる自己変革に努め、国際平和のために、地域社会、国際社会と連携して、社会に貢献できる人材の育成のために発展を続けます。