フランスにおける「哲学」~大学入試と「哲学する」授業~

フランスにおける「哲学」~大学入試と「哲学する」授業~

大学入試の最初の科目は「哲学」

フランスの大学入試は「バカロレア」と呼ばれ、高校修了を認定する国家資格です。合格すると基本的にどの大学(フランスの大学はほとんどが国立)にも入学できます。バカロレアの初日の午前に行われるのが「哲学」の試験で、哲学がとても重視されていることがわかります。「物事を認識するためには、物事を観察するだけで十分か」といった命題に対して、小論文の執筆が課せられます。試験時間は4時間に及び、明確な論理展開で、自分の考えを表明することが求められます。

フランスの高校での哲学教育

フランスの高校3年生は、文系で週8時間、理系でも週4時間の哲学の授業を受けます。授業内容は、「人間とは何か」「愛とは」「自由とは」などの命題に対する議論が中心です。教科書はさほど使用されず、正解はひとつとは限りません。生徒は自由に考えたことを論理的に構成して、他者に伝える力を養います。教師は議論の展開を促すために、歴史上の哲学者の思想を参照し解説したりします。こうすることで、過去や現在の思想を単なる知識としてではなく、生きた言葉として提示し、学生らの思考の深化に役立たせるのです。
現在のフランスの哲学教育は、1920年代に確立しました。数学にしても歴史にしても、学年が上がるにつれて、学ぶ内容はどうしても細分化されていきます。選挙権を得る18歳前後の高校3年の時期に、それまでの知識を総合し、社会の一員としての資質を養ってもらうために、哲学が活用されているのです。

「哲学すること」の教育的意義

日本の高校で、これほど深く自由に思索する機会はあるでしょうか? 歴史や倫理の教科書に、哲学者やその著書、思想の特徴などが出てくることはありますが、それらは「哲学についての情報」にすぎません。一方、フランスの哲学の授業は、情報を得るだけではなく、一人ひとりが「哲学すること」を目的にしています。日本では主体性や創造性の育成が求められますが、フランスの哲学教育の実践には大いに注目するべきでしょう。

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東京都立大学 人文社会学部 人文学科 フランス語文化教室 准教授 西山 雄二 先生

東京都立大学 人文社会学部 人文学科 フランス語文化教室 准教授 西山 雄二 先生

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哲学、フランス文学、教育学

メッセージ

私が所属している人文・社会系では、さまざまな文化圏の研究・教育が行われています。せまい日本だけの価値観にとらわれずに、いろいろな国から多様な価値観を学んで、柔軟な人間力をつけることができるのです。
私はフランス語圏文化論の研究を専門にしています。学生の皆さんと、フランスに滞在する機会をもち、フランスという国の価値観に直に触れる機会もあります。これらが「人生が変わるほどの経験」になる場合も少なくありません。興味があれば、ぜひ一緒に学んでいきましょう。

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