南極の細菌が虫歯を防ぐ? 過酷な環境に生きる微生物への期待

極限環境で暮らす微生物たち
細菌などの微生物は、薬など人にとって有用な物質を作ることが知られています。そこで未知の有用物質を求めて、南極に生息する細菌についての研究が行われています。
南極は低温でかつ乾燥しており、紫外線も強いという過酷な条件がそろった極限的な環境です。南極内陸部の、氷に覆われていない露岩帯のいろいろな地点から土砂を採取して調査が行われました。すると、ユキドリの営巣地や地衣類の生息地のような細菌にとっての栄養がある場所だけでなく、ほかの生き物がいない場所からも細菌が見つかりました。このような場所で細菌がどのように生息しているのかはよくわかっていません。そしてこれらの細菌を培養してDNAを解析してみると、通常の地域ではあまり見られない種類であること、採取した地点によって細菌の種類が違うことがわかりました。
さまざまな有用性への期待
こうした細菌のさまざまな性質が明らかになりつつあります。例えば南極に生息するユキドリは、胃から分泌される「胃油」を吐き出す習性がありますが、ユキドリの営巣地から分離された細菌にはこの胃油の成分である脂質を分解する能力があります。また、細菌が培地に作るコロニーの色や形状から、紫外線耐性や抗酸化作用、保湿作用を持つ物質が作られている可能性も考えられ、分析が進められています。
南極とは関係なさそうな性質
南極の環境との関係がよくわからない有用な性質もあります。その一つが「虫歯菌バイオフィルムの抑制」で、もう一つが「雑草発芽の抑制」です。それぞれ虫歯予防薬や発芽を抑える農薬として応用が期待されます。ただ、そもそも南極には虫歯菌はおらず、植物もほとんどいないため、なぜそのような性質を持っているのかわかっていません。大昔の異なる環境で獲得した性質の名残なのか、別の目的の物質に偶然それらの作用があるのかもしれません。
このように、南極の細菌から見つかった有用物質の実用化をめざすとともに、細菌の持つ性質と環境との関連性を明らかにする研究が進められています。
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