薬が効かなくなった細菌を臨床検査で見極めるには?
細菌と薬のイタチごっこ
薬剤耐性とは、それまである薬が効いていた細菌やウイルスが、その薬に対する耐性を持つようになり、薬が効かなくなってしまう現象のことです。よく知られた例では、黄色ブドウ球菌がメチシリンという薬に対して薬剤耐性を持つようになった「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」があり、医療施設内での院内感染を引き起こす原因として警戒されています。
薬剤耐性を持つ細菌は昔から存在していましたが、近年、その種類や検出数は増加傾向にあります。医療機関で使用される薬の種類や量が大幅に増え、薬剤耐性を持つ細菌に対して別の薬を投与し、その薬にも耐性を持つ菌が生まれ、イタチごっこの状況に陥っているのです。
「サセプティブル」か「レジスタント」か
細菌が薬剤耐性を獲得するメカニズムには、外膜を変化させて薬を中に入りづらくさせる方法や、中に入ってきた薬をポンプのような仕組みで排出する方法、薬が作用する部分を変化させる方法、そして「β-ラクタマーゼ」と呼ばれる酵素を産生することで薬を不活性化させる方法があります。多くのβ-ラクタマーゼの中でも「基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBLs)」が注目されています。
ある菌に対し、薬剤耐性菌かどうかを判定するために行う検査が「薬剤感受性試験」です。「感性(Susceptible)」か「耐性(Resistant)」を見極める検査の結果は、常に最新の情報に更新されながら、医療現場に報告されています。
臨床検査技師が果たすべき役割
薬剤耐性の有無を見極めるための検査技術は、格段に進歩しています。β-ラクタマーゼの検査方法として用いられている質量分析は、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏の研究成果によって精度が大幅に向上し、より正確なデータを迅速かつ低コストで得られるようになりました。また、遺伝子検査による分析の精度もさらに向上しています。正確な検査データによって医療現場を支える臨床検査技師の役割は、今後ますます重要になっていくと考えられています。
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先生情報 / 大学情報
帝京大学 医療技術学部 臨床検査学科 准教授 松村 充 先生
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