「桜咲く中で入学式」はいつ頃からの習慣?

「桜咲く中で入学式」はいつ頃からの習慣?

桜=ソメイヨシノという常識

「満開の桜の下で入学式や入社式を迎える」というのは、私たちにとってなじみ深い風景になっています。この場合の桜は、ほとんどがソメイヨシノです。日本の桜の7~8割を占め、東京あたりでは4月上旬に一斉に咲いて散っていきます。
この桜は19世紀の後半に登場した品種で、今の豊島区染井あたりの園芸業者が「吉野桜」という名で売り込んでいたことから、「ソメイヨシノ」と名付けられました。ソメイヨシノは接ぎ木で殖やされるため、遺伝子的にはすべての木が同じ(クローン)なので、並木では一斉に咲いて散る咲き方になります。また根付きがよく、10年ぐらいでゆたかな花つきになるので、計画的な植樹に向いています。そのため大正時代ごろから、都市開発や土木工事にあわせてソメイヨシノの桜並木があちこちにつくられていきます。

戦争によって変化した習慣

太平洋戦争時の空襲で、全国各地の桜の名所の多くは焼けてしまいました。それまでは地方ごとに特色ある桜を楽しんでいたのが、戦後桜の名所を作り直す際、あつかいやすいソメイヨシノが主に使われました。大正時代に始まった「ソメイヨシノの日本列島」は、戦後の復興期に完成するのです。
また戦後になって4月の一斉入社や一斉入学が定着していきます(それまでは時期を決めずに入社したり、春と秋の二回入学があったりしました)。ソメイヨシノの花盛りと、入学や入社の時期がちょうど重なるようになるのです。列島全体で時期をあわせて一斉に慌ただしく人が別れ、出会う社会になった。そのことがソメイヨシノの一斉に咲いて散るという特徴と重なって、桜を人の出会いと別れを飾る花にしていったと考えられます。

昔からのイメージなのか……

ソメイヨシノが全盛になる前には「桜の春」は1カ月でした。4月初めにはすでに散っている桜やまだまだ咲くには早い桜があたりまえにあったのです。桜に対して日本人が持つイメージは、昔からあるものと見られがちですが、歴史を調べると、意外に新しい現象だということがわかります。

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東京大学 教養学部 総合社会科学科 教授 佐藤 俊樹 先生

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社会学

メッセージ

社会学において大事なのは、自分の中にある常識をうまく手放すことです。まずは自分と違う常識を持っている人を頭から否定せず、柔らかく受け止めてみてください。社会学の対象は人に関わるものなのですから、さまざまな人と接して相手を理解しようとすることが、社会学のめざす「価値観の自由」(マックス・ウェーバー)につながります。身近なところから題材を得てそれを考え直すことで、人生や生活により多くの可能性を広げていく。その自由さが社会学の魅力なのです。

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