おいしさの追究は、新商品開発やSDGsにつながる
おいしさを追究する食品物理学
食べておいしいと感じる食品は、なぜおいしいのでしょう。それを解き明かすのが食品物理学であり、分子ガストロノミーや美食学とも呼ばれています。
人は味覚や視覚、触覚といった五感を使って、おいしさを見極めます。とくに歯ごたえや食感、のどごしは重要な要素です。食品の硬さ、かみ砕く感覚、食道への流れやすさなどは物理的に分析できます。また、どんな食品であれ、水分と油分が混ざり合っているものです。それがどんな状態か、混ぜると何が起きるのかは分子論的に検証できます。これらの観点から、食品のおいしさを追究していきます。
メカニズム解明で広がる可能性
例えば、多様な種類があるチーズのなかでも、熟成チーズは職人の感覚を頼りに製造されることが多いものです。熟成チーズは、牛乳に含まれるタンパク質に働きかける酵素(レンネット)を混ぜて凝固させ、水分を抜いて作られます。季節によって使う牛乳が異なり、酵素をどのように混ぜるか、温度や酸性度などによって出来具合が違ってきます。これらの工程のメカニズムが解明されれば、作り方を若手に継承しやすくなります。熟成チーズは小さな工房でつくられることが多いのですが、大きな工場で製造するための指針にもなるでしょう。
商品開発やSDGsにも有効
こうした検証は、新しい熟成チーズの商品開発も可能にします。これまで常識と思われていた工程を変えて、より滑らかな熟成チーズの製造に取り組むことができます。
今は動物由来の凝固酵素が使われていますが、キウイなどの植物由来の酵素が使えれば、SDGsに貢献できます。よりおいしく効率のよい食品製造を追究するため、食料不足問題の対策にも役立ちます。
これは、チョコなどのあらゆる菓子や料理、食品が対象となり、製造工程のトラブルや生産性向上にも役立てることができます。食品物理学は比較的新しい学問ですが、「おいしいものを食べる」という人間の生存に関わるだけに、今後重要性が増していくでしょう。
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