アメリカン・コミックで多文化国家アメリカの今を理解する
主人公はイスラム系アメリカ人
『ミズ・マーベル』というアメリカン・コミックがあります。主人公は、イスラム系アメリカ人の女子高校生です。ニューヨークの外れの小さな町に住んでいる彼女は、ある時、体を自由に変化させる魔法の力があることに気づき、その力を生かして町で起こるさまざまな事件を解決していきます。
アメリカン・コミックには『スーパーマン』や『スパイダーマン』『バットマン』のようなヒーローものの伝統があり、主人公は白人男性です。つまりこのコミックは、伝統的なアメリカン・コミックとは一線を画しています。
自分の命や家族を犠牲にして悪と戦う
移民国家であるアメリカは、複数の宗教や民族が存在する多文化国家です。人種差別があり、宗教的な対立があることは事実です。メディアはそういった負の側面ばかりを強調します。しかしそれは政治的な意図に基づくもので、すべての人がそう考えているわけではありません。このコミックでは主人公はイスラム系ですが、すべてのアメリカ人のために命を犠牲にして悪と戦います。それだけでなく家族さえも犠牲にします。親は保守的なイスラム教徒で、イスラム文化と現代アメリカ文化の緊張の中に生きていますが、主人公は自らの出自と葛藤しながら、正義のためにそれを乗り越えていきます。このコミックが若者を中心に支持されているのも、そのような主人公の姿が共感を呼ぶからなのです。
多様なアイデンティティの存在
『ミズ・マーベル』には、アメリカの実際の姿が映し出されています。多文化社会の根底には、個人のアイデンティティ(自己同一性)の問題があります。いかにアイデンティティを確立するかが、生きていく上での大きなテーマです。しかし、アメリカ人のアイデンティティは1つではありません。メキシコ系、アフリカ系、アジア系などさまざまな人々が生きている社会なので、多様なアイデンティティが存在しています。そして、アメリカ人も若者を中心にそれを受け入れ、共存を志向する人が増えてきているのです。
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先生情報 / 大学情報
名桜大学 国際学部 国際文化学科 上級准教授 メーガン・クックルマン 先生
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