方言を知ることで、日本語の起源がわかる……かも!
標準語と方言の言語体系は異なる
方言には、標準語とは異なる独自の体系があります。例えば、標準語で「木が倒れている」と言う場合、すでに倒れているという「完了」の意味と、今倒れつつあるという「進行」の2つの意味があります。どちらであるかを状況から判断しなければなりません。ところが、九州北部の方言では、「完了」の場合は「倒れとう」と言い、「進行」の場合は「倒れよう」と言うのです。方言のほうが、意味的に細分化されています。勘のいい人は気づいたかもしれませんが、この「完了」と「進行」の区別は英語で習ったはずです。このように、ことばの細かい違いに注意を向けられるようになると、語学のセンスが抜群に高まります。
意味も用法も独自に変化する方言
実は、「倒れとう」と「倒れよう」は語源が違うと考えられています。「倒れとう」の語源は「倒れておる」です。これが変化して「倒れとう」になりました。この語源は標準語の「倒れている」に似ています。しかし、「倒れよう」の語源は「倒れおる」で、「て」が抜けています。まったく語源が異なっています。この点からも、方言は標準語とは体系が異なると言えるのです。さらに、意味も時代によって変化しています。もともと完了をあらわす「倒れとう」は、若い世代では完了と進行の両方の意味で使われています。つまり、標準語の「倒れている」と同じ意味に今「なりよる」と言えます。
なぜ、消滅しそうな方言を記録すべきなのか
方言は、受け継がれるものがある一方で、消滅しそうになっているものも数多くあります。例えば、沖縄の黒島という離島では、人口は約200人ですが、島の方言が話せる人は70代以上の30~40人です。今、その人たちから方言を記録しなければ後の時代に残すことができません。それは文化として残すという意味だけではなく、日本語の起源・歴史を知るという点でも重要です。言語は常に変化していて、その変化の中身とその理由を知らなければ、日本語の歴史をたどることはできないからです。
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先生情報 / 大学情報
長崎大学 多文化社会学部 多文化社会学科 准教授 原田 走一郎 先生
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