「移動」が前提の社会で私たちのことばと文化をはぐくむために

「移動」が前提の社会で私たちのことばと文化をはぐくむために

海外の「日系」移民から共生のヒントを探る

日本では外国につながる子どものことばの教育、文化背景が異なる人との共生が課題となっています。そこで、南米日系社会など海外の「日系」移民から共生のヒントを得るための調査が行われています。日本人が集団移住して100年以上の歴史がある南米では、現地のポルトガル語と日本語が接触して混じり合ったコロニア語やコロニア料理が生まれました。しかしそうして発展したコロニア文化も、現在は継承者が減少し消滅の危機にあります。移民二世の日本離れ、都市への流入など色々な要因がありますが、日本語・日本文化を神聖化し、次世代に厳しく継承しようとしたことも要因の一つです。

自分の多様性に気づく

南米の日系コミュニティの中には、現地の固有のことば・文化と日本語・日本文化がうまく共生しているところもあります。調査により、ことば・文化の多様性について、包摂的に受け入れる傾向が見えてきました。これは南米に限らず人の移動がある中で共生していくためのヒントでもあります。「色々な文化やことばがあっていい」という態度をはぐくむためには、まず自分が「多様な存在」だということを意識化する教育が必要です。日本でも、人は家族、地域、学校、職場など様々なコミュニティを移動しながら生きています。そういった自身の多様性に気づくことは、ほかへの共感力を高めることにつながります。

グローバル化に抗うために

現在、世界は定住者の社会から、移住や多拠点居住などの非定住者の存在を前提とした社会への移行が進んでいます。私たちは誰もが複数の場所で複数のことばで生きています。一方で、多くの言語や文化がグローバル化の名のもとで均質化しています。資本のあるところに人や物が集中し、経済的に強い国の言語や文化に地域の言語・文化が飲み込まれています。その流れに少しでも抵抗するには、言語的・文化的な多様性を包摂し、固有の価値を意識化できる共生社会づくりのための戦略と戦術が必要です。そうした研究が日本語を切り口に行われています。

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先生情報 / 大学情報

東京都立大学 人文社会学部 人間社会学科 日本語教育学教室 教授 松田 真希子 先生

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応用言語学、日本語教育学、日本語学

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メッセージ

十人十往復です。思考を深める手段として、読み書きだけでなく「対話」をすることをおすすめします。何か一つのテーマについて、十往復くらいやりとりしてほしいです。中身について深く質問する、自分の体験も添えてコメントして、そのコメントに対して意見をもらうといったやり取りです。そのように語り合うことで、自分がどういう考え方をする人間か、何を大事にしているか、これからどういう人として生きていきたいのかなども見えてくるはずです。ぜひ十人以上、身近な人だけでなく違う世界に生きている人とも話してみてください。

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