母親の食生活と子どものIQの関係は? ~興味深い栄養学の話~

母親の食生活と子どものIQの関係は? ~興味深い栄養学の話~

脳の発達に深い関わりを持つ栄養

胎児に何らかの理由で栄養や酸素がしっかり届かず、2500グラム未満で生まれた赤ちゃんのことを、低出生体重児といいます。低出生体重児は、正常体重児と比べてさまざまな障がいが現れる可能性が高い傾向にあり、ADHD(注意欠陥・多動性障がい)や自閉スペクトラム症などの発達障がい、脳性まひといった神経疾患のリスクも高いことが疫学調査で明らかになっています。
医学分野では以前から、低出生体重児の予防・治療が研究されていますが、近ごろは栄養学の分野でも、この研究が進められています。栄養学というと肥満やメタボリックシンドロームなどに注目が集まりがちですが、実は脳の発達や精神疾患の予防という点においても、栄養の果たす役割は大きいのです。

魚をよく食べる母親の子どもはIQが高い?

例えば、アメリカ食品医薬品局(FDA)の研究報告に、「魚をよく食べている妊婦から生まれた子どものIQ(知能指数)は高くなる」というものがあります。IQ数値でいうと4程度、偏差値では2.5程度高いということです。この結果から、FDAは「妊婦は多様な魚を毎週8~12オンス(約224~336グラム)食べること」と勧告しています。
2000年代前半ごろまで、アメリカではむしろ、妊婦は魚を食べないよう指導していました。魚に含まれる水銀による害が懸念されていたからですが、今ではそれよりも、魚の栄養によるメリットの方が大きいと考えられています。

「治療」という観点から栄養学を考える

同様の報告はヨーロッパ諸国にもありますが、日本ではまだ研究が行われていません。魚以外の食生活や環境なども関係しているかもしれませんが、この研究は栄養学においても医学においても非常に興味深いものです。なぜなら、世の中にIQを4上げる薬はないからです。
病気を治すのは医学だけではありません。高額な医学治療に対し、毎日の食生活で取る栄養は、いわば「持続可能な治療法」です。そこに栄養学の可能性と将来性があるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

京都女子大学 家政学部 食物栄養学科 教授 辻 雅弘 先生

京都女子大学 家政学部 食物栄養学科 教授 辻 雅弘 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

食物栄養学、栄養学

メッセージ

私は2019年度に京都女子大学の教員となるまで、小児科医でした。研究テーマは赤ちゃんの脳障がいに対する新しい治療法の開発です。新規の薬剤や幹細胞を用いた再生医療を研究していたのですが、それらを実際に妊婦さんや赤ちゃんで検証するのは難しい問題があります。
一方で近年、脳障がいには毎日の食事が大きく影響しているという研究報告が少しずつ出てきているので、私は栄養面から、子どもの脳障がいの予防法・治療法を開発していくことにしました。あなたにも、栄養学に興味を持ってもらえたらうれしいです。

先生への質問

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京都・東山の麓にキャンパスが広がる京都女子大学は、全国各地から学生が集まる全国型の女子総合大学です。
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